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第65回日本体力医学会大会に参加して
北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学
博士課程大学院生 菅 唯志
2010年9月16日から18日の3日間の日程で第65回日本体力医学会大会が千葉県の千葉商科大学と和洋女子大学で開催されました。本学会では、基礎医学における生理学や生化学、解剖学、分子生物学などの研究から、体育学や運動学におけるトレーニング指導や運動処方、さらには臨床医学や心理学など多岐にわたる研究分野の研究発表が行われました。私は、5年前より本学会で研究成果を発表させて頂いておりますが、とりわけ最近の印象としては、糖尿病やメタボリック症候群などの生活習慣病に関連する研究発表が増えており、これらの病態に対する体力医学の果たす役割が議論されております。
さて、今回、私は「メタボリック症候群患者における骨格筋代謝障害は酸化ストレスの増加に関連する」という演題を発表させて頂きました。メタボリック症候群患者では、有酸素運動能が低下しており、このような運動能力低下は効果的な運動療法の妨げや身体活動度の減少をもたらす等の臨床的悪循環を形成し、更なる病態の悪化を招来することが懸念されております。また、有酸素運動能は、インスリン抵抗性などの病態に深く関連するだけでなく、それ自身が心血管疾患発症の危険因子であり、さらには予後不良の独立した強力な予測因子であります。したがって、メタボリック症候群患者における有酸素運動能低下の機序の解明は、病態改善や強いては予後延長のための有益な情報になり得ると考えます。
この研究では、メタボリック症候群患者における有酸素運動能の低下に骨格筋エネルギー代謝異常や骨格筋細胞内脂肪の過剰蓄積といった「骨格筋代謝障害」が関連していることを磁気共鳴分光法という生体内を非侵襲的かつリアルタイムに測定できるシステムを用いて明らかにしました。さらに本研究では、このような骨格筋代謝障害に酸化ストレスの増加が関与していることを見出し、「メタボリック症候群における有酸素運動能低下に酸化ストレスを上流基盤とする骨格筋代謝障害が関連する」という一連の機序を解明しました。この研究成果が、メタボリック症候群の病態改善のための酸化ストレスの軽減や骨格筋代謝障害の改善に着目した新たな治療戦略の創出に少しでも貢献できればと思います。
また、この度、発表させて頂いた研究が、本学会の優秀演題賞にあたる大塚特別賞受賞研究に採択され、大会1日目に受賞講演をさせて頂きました。受賞講演後に多くの先生方から興味深いご質問やご助言を頂き、これからの研究遂行にあたり大変貴重なご指導を頂戴することができ、とても有意義な学会となりました。
最後になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜わりました財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。