NO.52 |
第23回循環器予防セミナーに参加して
虚血性心疾患の運動療法と予防における理学療法士の役割から
札幌医科大学医学部公衆衛生学講座
大学院生・理学療法士 韓 萌
狭心症、心筋梗塞などの重度な虚血性心疾患を罹患しても、多くの方はリハビリテーションを通して、社会復帰を実現しています。運動療法を中心とする狭心症、心筋梗塞発症後のリハビリテーションを進めるに当たって、心臓を栄養している冠循環の冠予備能を正しく評価することが極めて重要です。この他、発症後に心臓の収縮性が低下することが多く、心臓のポンプ機能がどの程度の運動にまで耐えられるかを知ることも運動療法を進めるに不可欠です。
運動能力の増大と身体活動の教育的指導、さらに2次予防を目的とする運動療法を担うのは心臓リハビリテーションを専門とする理学療法士です。現在、医療機関で行われる急性期と回復期運動療法のみならず、高齢者施設、運動増進施設などで継続される維持期運動療法でも理学療法士が積極的にかかわっています。
急性期運動療法は安静臥床や身体非活動によるデコンディションニングの予防が主要な目的です。具体的には体力的、心理的に不安傾向の強い患者さんに対するベッドサイドでの運動を実施するほか、離床初期から歩行や階段昇降などの移動能力に関する身体機能の評価も理学療法士によって行われています。さらに運動療法室へ移行後の運動指導や、退院後の日常生活に必要となる運動能力を安全に再獲得させることが理学療法士の第一の役割となっています。
回復期運動療法は、病前(術前)生活への完全復帰を目標としており、急性心筋梗塞においては壊死心筋の瘢痕化が完成する発病後約3週目から3ヶ月以内で実施されます。この時期での理学療法士の役割は主に@筋のストレッチ運動と筋力強化運動、ならびに有酸素運動とする運動能力改善に向けた評価と指導を担当し、A心拍、血圧、不整脈ならび虚血性心電図変化などの心血管反応の評価とする心臓モニタリングも行い、B患者個人の運動能力と社会生活の重ね合いで、病前社会生活に完全に復帰するために行われる予防運動の習慣づけほか、Cカウンセリングなどと共に、運動療法は不安傾向を低下させ、身体概念と自信の再構築に寄与する心理的援助など、4点に集約されます。
以上、心疾患発病後の運動療法における理学療法士の役割について述べましたが、運動習慣の指導から疾病を未然に防ぐことも理学療法士の重要な役割です。筆者は2010年7月末日からの5日間、第23回日本循環器予防セミナーに参加しました。実行委員長である札幌医科大学島本和明学長の厚い支援と、司会を務めた札幌医科大学内科学第2内科講座の大西浩文講師などのスタッフが尽力した運営が成功に導いた本セミナーは循環器疫学、統計学、循環器疾患の実態と対策を学び、さらに毎晩遅くまでワークショップを重ねる例のない経験でした。期間中は「メタボリックシンドローム発症予防のためのライフスタイルスケールの開発」について筆者が属したグループのメンバー同士が意見を重ね、最終的にチューターの指導の元で一つの研究計画を完成した経験は将来の研究生活に大変役に立つことを感じました。
最後に、本学会の参加に当たり研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に厚く御礼申し上げます。