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第11回日本心不全学会学術集会
北海道大学大学院 医学研究科 循環病態内科学講座・大学院生
井上 直樹さん
平成19年9月9日から2日間、東京ディズニーリゾートに隣接する千葉県浦安市舞浜のヒルトン東京ベイにて、第11回日本心不全学会学術集会が開催されました。本学会では「心不全研究・臨床の未来に見えるもの(Future Medicine of Heart Failure beyond Basic Research and Clinical Evidence)」をメインテーマに、様々な分野からの研究成果発表はもちろん、臨床医学・基礎医学・コメディカルの3分野にわかれた充実したシンポジウムを拝聴することができました。特に臨床医学のブースでは心不全の非薬物療法・不整脈治療、新しい心不全評価法、急性心不全の治療、心筋症の新たなガイドライン、心不全の外科治療など多岐にわたる講演があり大変勉強になりました。
さて、今回私は「アンジオテンシンUは酸化ストレスを増加させることにより直接的に骨格筋のエネルギー代謝を障害し運動耐容能を低下させる」について発表させていただきました。心不全では骨格筋の酸化的リン酸化能の障害と運動耐容能の低下を認め、また心筋局所・全身のアンジオテンシンU(AngU)が活性化しており、AngUによる酸化ストレスが心不全の病態に関係していることが知られています。以前我々は骨格筋で増加した酸化ストレスによりマウスの運動能力が低下することを報告しており、したがってAngUによる酸化ストレスの増加が骨格筋のエネルギー代謝を障害し、運動能力を低下させるのではないか、と仮定し検討しました。その結果、AngUを慢性投与したマウスでは、運動能力の低下、骨格筋ミトコンドリア呼吸能の低下、ミトコンドリア複合体V活性の低下を認め、それらと同時に骨格筋での酸化ストレスの増加を伴っていました。AngUはNAD(P)H oxidaseを介して酸化ストレスを生じることが知られており、AngUとともにNAD(P)H oxidaseの活性化抑制剤であるアポサイニンを投与したマウスでは、骨格筋での酸化ストレスの減少と運動能力の改善、ミトコンドリア呼吸能およびミトコンドリア複合体V活性の改善を認めました。
これらより、(1) AngUはNAD(P)H oxidase由来の酸化ストレスを増加させ、骨格筋のエネルギー代謝を障害し運動能力を低下させること、(2) 酸化ストレスをターゲットとした治療により、心不全をはじめとする様々な心血管疾患における運動能力の改善が期待されること、が示唆されました。 発表中は、幾人かの先生方から興味深いご質問やご助言をいただき、これからの研究遂行にあたり大変貴重なものとなりました。この学会で得られた知見を今後の研究、診療活動に役立て、少しでも医学および医療の発展に貢献できればと思います。
最後に、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。