![]() |
NO.1 |
道民の健康を脅かす心臓病・血管病と闘っている道内の方々を紹介するシリーズです。
北海道心臓協会は、道民の健康をむしばみ、寿命に大きな影響を与えている心臓病や脳血管疾患を克服するために闘っている若手の研究者や医療従事者の研究を助成しています。
北海道心臓協会の伊藤義郎理事長から寄せられた御好意を原資に研究助成を行う「伊藤記念研究助成」も今年度で7回を迎えます。そこで心臓・血管病と闘う人たち」を紹介するこの欄に、第1回の研究助成を受けられた若手研究者に登場願って、その後の研究の発展などについて伺いました。
まずは、佐久間一郎氏(北海道大学医学部循環器内科助手)です。
<助成を受けられた研究の内容を教えてください>
<どのようなことが分かりましたか>私は1988年に米国留学から戻り、留学中に携わつた一酸化窒素(N0)の研究を続けていました。留学中にN0がアミノ酸であるL−アルギニンを原料として血管内皮細胞から産生されること(そして、このN0はニトログリセリンと同じような作用で血管を広げる)を見出したのですが、L−アルギニンからNOを作り出すN0合成酵素の阻害薬をネズミに静注すると血圧が上昇し、また交感神経の緊張が高まることがわかっていました。
助成を受けた研究は、それを発展させて、NO合成酵素の阻害薬をネズミに長期的に投与させると新たな高血圧のモデルができるのではないか、またその際に心臓やその他の体内臓器にどのような影響が生じるかについて検討し、N0の生体内での役割を探るものでした。
<現在の研究は?>ネズミにN0合成酵素阻害薬を長期に与えてNOが産生されないようにしておくと、高血圧になることがわかりました。またその際にも血中のノルアドレナリンが上昇し、交感神経も緊張することが分かりました。
このN0合成酵素阻害で作成された高血圧ラットでは、血圧が生まれつき高いSHRSPラットに比べて血圧上昇の程度が低いにもかかわらず、大動脈や必臓の冠状動脈に肥厚や組織化などの病変が生じました。つまり、体内て生じるN0は、高血圧などの際に血管や必臓を保護する働きのあることが分かりました。
<わずか一層の血管内面を被っている血管内皮細胞ですが、大変重要な働きをしていることが分かりました。今後はどのように発展するのでしようか>動物を用いた墓礎実験では、上記の血管病変発生にノルアドレナリンがどのくらいかかわっているか検討中です。また、糖尿病を発症させたラットを用いて、その冠動脈の毛細血管病変がなぜ生じるか、その治療法はないか、という実験を続けています。そのほかにN0以外で内皮細胞から産生されて、やはり血管を拡張させるEDHFという物質について研究を続けています。
臨床的にも、このEDHFやN0がヒトの冠状動脈の太い部分や毛細血管にどのように作用しているか、また動脈硬化や高脂血症でその作用がどう変化するかについて、新たに開発された血管内エコー法や非常に細いワイヤー型ドプラ法という方法を用いて検索しています。
<道民の皆様に専門の立場から一言コメントしてください>血管内皮細胞からはN0やEDHFをはじめ種々な血管拡張物質が産出され、血流を保つ働きを担っていますが、それ以外にもエンドセリンなどの血管収縮物質も生成され、さらにサイトカインという血管平滑筋細胞や免疫細胞の働きを調節する数々の物質も放出されています。この内皮細胞から生成される種々の物質が虚血性心疾患や動脈硬化、高脂血症などでどのように働いているか、今後ますます研究が深まると思います。
また血管内皮細胞の働きを臨床的に評価する方法も確立されていますので、これらを用いて、種々な病気における内皮細胞の働き具合や、治療による変化などを評価することが今後進められると思います。
最近コレステロール値の高い患者さんの検査をして分かったのですが、高脂血症があると冠状動脈が非常にけいれんしやすくなるのです。つまり、わずかの動脈硬化であっても、高脂血症があるとストレスにより冠動脈はけいれんして血流が途絶え、必筋梗塞を発症することになります。その機序の一つに、私が研究してきたN0の機能低下が介在しているようなのですが、食事に気をつけてコレステロ−ル値を低めに抑え、ストレスを避け、タバコをやめることが心筋梗塞にならない基本だということを知っていただきたいと思います。