21世紀を目前にした変革の時に、政治は国民に明確な羅針盤となっているだろうか-。「官」に対する「政」の復権を唱える田中秀征・元経済企画庁長官と山口二郎北海道大学法学部教授が「日本政治を切る」と題して対談した。今年1月に続いて北海道新聞が企画した。景気の停滞感が高まるなか、財政再建との兼ね合いをどうするか、地方分権をどう実現していったらいいのか、提言を聞く。




山口二郎
(やまぐちじろう)
北海道大学法学部教授。1958年岡山県生まれ。東大法学部卒。専攻は行政学。官僚機構への積極的批判で知られる。村山政権時代には田中秀征氏らとともに首相への政策提言を行う「二一会」メンバー。道の民間顧問も務めた。今年に入って約半年間、ロンドンに留学し、英国ブレア政権誕生を間近に見た。著書に岩波新書「政治改革」「日本政治の課題」
田中秀征
(たなかしゅうせい)
1940年、長野市生まれ。東大文学部、北海道大学法学部卒。衆院当選3回。93年自民党を離党し、細川内閣の首相特別補佐、新党さきがけ代表代行を経て96年、第1時橋本内閣で経企庁長官。昨年10月の総選挙で落選。近著に「民権と官権」「日本の連立政治」。細川護煕元首相、小泉純一郎厚相と行政勉強会を続け、山口二郎氏もメンバー。







 山口 景気対策の必要性が言われています。私は、財政危機を待望しているところがあるのです。公共事業の打ち出の小づちがなくなってこそ、政治家同士の競争が可能になりますから。

 田中 今は「政策とは予算配分」ですからね。私は経企庁長官の時、経済白書に「改革は展望を切り開く」との副題を付けた。既得権益にあぐらをかいている構造にメスをいれないとだめだと。ただ、今は公共投資の追加や特別減税をしないと景気がしぼむ状況。しかし、ここが辛抱のしどころです。

 山口 宮沢政権の末期以来、数次にわたる景気対策で相当の補正予算積み増しもやってきたが、経済は成長軌道に乗らない。景気対策のための安易な財政出動は害のほうが大きい。私は英国で半年間、研究してきましたが、イングランドバンクなどが心配しているのはむしろ日本発の金融恐慌です。財政を使うなら不良債権処理に真っ先に充てるべき。税金で銀行の救済はけしからんとの声もあったが、事態は深刻。金融処理は大蔵省主導ではできっこないので、政治主導が必要です。

 田中 宮城県知事選では「ハコ物はいらない」と言った浅野史郎知事が再選されましたが、宮城県が選んだ道を北海道も選べないわけはない。ウルグアイ・ラウンド対策費だって農業者の側から、こういう状況なら少し待つとの声が出てもいい。

 山口 行革論議で心配なのは、都市の勤労者から搾取した税金を地方にばらまいてけしからんという議論があることです。地方の側からも、住民の視線に立った行革論を出すべきだ。北海道として本当に必要なものは何かを自分で取捨選択して声を出すことが大事でしょう。

 田中 公共事業がこのままの規模で今後も続くはずはありません。これから大きく転換していくという心構えが政治や行政だけでなく道民にも必要だと思いますね。

 山口 お金は必要だけども、それを未来にどうやって使うか皆でまじめに議論していかないといけない。道開発庁も従来のシステムを縮小延命させようとしたら国民全体から見放されますよ。

 田中 残念ながら今は、景気対策の陰に行革が隠れていく感じがしますね。

 山口 スコットランドの地方分権を見て感動しました。九月に住民投票でスコットランド議会の設置が決まりましたが、当時、分権反対の保守党は、「分権すると税金が上がる」と主張した。しかしスコットランドは、多少苦しいことはあっても分権がいいと決断した。この意識を北海道も学ばないといけません。