私のロシア文庫

  ★マークは私の気に入っている度合いを示しています。★★★はお勧めの一冊。★★は「まぁいいかな」。★はそれなり。
 

エスピオナージ
タイトル 著者 訳者・
出版社
書評・その他


消されかけた男 ブライアン・
フリーマントル
稲葉明雄
新潮文庫
 チャーリー・マフィンシリーズ第一作。冴えない中年の男が、実は有能なスパイ。刑事コロンボを思わせるが、コロンボよりはむしろ虚無感を感じさせる。上司の裏切りに、手痛い報復を浴びせ、知恵と動物的な勘で生き延びるチャーリーは国に対する反逆者の烙印を押されるが、彼を評価するのはむしろ敵という皮肉な筋立て。信じられる相手がいないスパイの世界の非情さと、理不尽な上司−どこか企業社会に通じる物を感じるのは、小生の思い込みが強すぎるだろうか。

再び
消されかけた男
ブライアン・
フリーマントル
大熊栄
新潮文庫
 消されかけた男に続く第2弾。自分を罠に陥れた米英情報部首脳らを、逆にKGBに逮捕させてしまった「反逆者」チャーリーは、両国の執拗な追及を受けつつも逃れ、生き延びた。しかし、尊敬する元上司の墓参りのため英国へ戻ったことからピンチを招く。イアン・フレミングの007シリーズと違い、アクション場面の少ないチャーリー・マフィンシリーズだが、最愛の妻を射殺されるという悲劇的シーンもある。スパイ小説にとどまらないおもしろさがある。しかも結果として国を裏切った男がヒーローというのは異色のヒーローなのだが…

呼び出された男 ブライアン・
フリーマントル
稲葉明雄
新潮文庫
 引き続き反逆者として追われるチャーリーに、尊敬する元上司の息子が救いを求めてくる。自分の身元が明らかになる恐れがありながら、チャーリーは香港へ渡る。そして案の定、彼を葬ろうとする英米の諜報機関が手を伸ばす。友人の妻との不倫など、冴えない見かけの男にもかかわらず、なぜか女性にもてるのが不思議と言えば不思議だが。


罠にかけられた男 ブライアン・
フリーマントル
稲葉明雄
新潮文庫
 保険引受人の友人を助けようと、チャーリーはまたも登場する。殺されたニコライ2世の切手コレクション展示会をマフィアのボス逮捕のために利用しようとするFBI。そうはさせじとFBIに対抗するチャーリー。民族の宝を守るには同じスラブ人にと、KGBを巻き込むという大胆な対抗策も。前作の呼び出された男よりも、こちらがお勧めかな。

追いつめられた男 ブライアン・
フリーマントル
大熊栄
新潮文庫
 書き出しはなかなかの緊張感を見せるものの、正直言って、前半がかったるく感じるのだが…。英国の諜報員が、世界各地で相次いで殺された。KGBに内通している裏切り者がいるのは確実だ。英ソ情報部が激しい駆け引きを張り巡らせる。その最中、欧州サミットを控えたローマに現れたチャーリーに、KGBの罠が迫る。チャーリーははたして生き延びられるか。


亡命者は
モスクワを目指す
ブライアン・
フリーマントル
稲葉明雄
新潮文庫
 ついに英国情報部に逮捕されたチャーリー。国家への反逆者として刑務所へ収監された。しかし、そこへしばらくして投獄された裏切り者の英国情報部員が、チャーリーに脱獄をもちかける。そしてあろうことかソ連へ渡るという。陰謀とそのまた裏側に張りめぐされた陰謀−。なにが真実か、だれが本当の味方なのか、ラストのどんでん返しは、してやったりと思っていたチャーリーにさえ意外な結末だった。シリーズの中でもMI6対KGBの駆け引きが色濃く描かれていると思う。

暗殺者を愛した女 ブライアン・
フリーマントル
稲葉明雄
新潮文庫
 KGBのテロリストが亡命を訴えてきた。しかし、どういうわけか本人はアメリカ行きを望み、妻は英国行きを望むという不可解な条件が付いた。はたして何を狙っているのか。互いに相手を出し抜いて、二人とも身柄を確保しようとする英米の確執がすさまじい。チャーリーが、日本を舞台に活躍を見せる今回のストーリーは、男と女の悲しい物語でもある。どちらかといえば毛沢東路線に近い?はずの元日本赤軍活動家が、ソ連側の協力者として登場するのは、いささかひっかかるのだが、虚々実々の駆け引きは今回もたっぷりとスパイの世界を楽しませてくれた。


狙撃 ブライアン・
フリーマントル
稲葉明雄
新潮文庫
 亡命ロシア人の情報から、ある要人のテロ計画が浮かび上がった。しかし、いつ、どこで、だれが???。テロリストを追うチャーリー、CIA、モサド、KGB、パレスチナの情報部、そしてチャーリーの愛したKGB尋問担当官がドラマの展開に花を添える。ジェームス・ボンドばかりがもてる訳ではない。なぜかさえない中年男のチャーリーも。
 実はチャーリーマフィンシリーズで、最初に読んだのが本作品だったが、第一作を上回るおもしろさを感じた。「狙撃」は、同じく狙撃をテーマとしたフレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」に比較されることも多いようだが、私の好みとしてはこちらだ。


報復 ブライアン・
フリーマントル
戸田裕之
新潮文庫
 チャーリーの恋人、KGBの尋問担当官ナターリヤが、対外情報部門のトップに登り詰めた。しかし、組織内の出世争いは激しく、自分の身内にさえ裏切られる。一方、ロンドンに情報を送っていた北京のイエズス会関係者を出国させるため、現地へ派遣された新人諜報員が任務遂行直前に中国当局に拘束されてしまった。その新人の教育係だったチャーリーも、中国へ。今回はチャーリーの娘が写った一枚の写真に、生き延びるヒントが隠されていた。

流出 ブライアン・
フリーマントル
戸田裕之
新潮文庫
 チャーリー・マフィンシリーズの第10作。ロシアンマフィアによるプルトニウム強奪事件が発生、つまはじき者にされていたチャーリーが再び活躍する。旧ソ連時代には、入国を許されなかったフリーマントルが、現地での取材を許され、その成果を発揮したとされている。


待たれていた男 ブライアン・フリーマントル 戸田裕之
新潮文庫
 シベリアのツンドラ地帯から男女3人の死体が発見された。男2人は第二次大戦時の英米軍の軍服を着ていた。女はロシア人。英米ロの合同捜査が行われることになり、チャーリーが起用される。ロシア側はチャーリーの愛するナターリヤ。
 外国人の立ち入りが禁じられていたシベリアでなぜ英米の軍人が死んだのか?冷戦終結後のスパイミステリーは、マフィアもの以外でも十分成り立つことを示した作品とおもう。例によって、チャーリーを快くおもわぬ上司らに手痛いしっぺ返しを浴びせるチャーリーの活躍は痛快だ。
 なお、チャーリーの新作がすでに完成しているという。

嘘に抱かれた女 ブライアン・
フリーマントル
染田屋茂
新潮文庫
 西ドイツの政府機関に努める孤独な女性秘書に、1人の男が近付いた。男は、KGBのやり手スパイというか、色事師。ジャーナリストと身分を偽り、彼女をだましてさまざまな機密情報を入手した。このままでは救われない話になってしまうのだが、そうは問屋が卸さない。チャーリーマフィンシリーズとは違うが、スパイ小説のエンターティナー、フリーマントルらしい長編作だ。

クレムリン・キス ブライアン・
フリーマントル
池 央耿
新潮文庫
 翻訳者の名前難しくてJISコードを探すのに苦労した。耳偏に火と書いて、ひろあきと読むそうですが…。
 中身はモスクワを舞台にしたCIAとMI−6の攻防。

終りなき復讐 ブライアン・
フリーマントル
染田屋茂
新潮文庫
 ゴルバチョフ政権の下で、変わりゆくソ連。しかし、ソ連を象徴する権力機関−KGBでは、二人の男の確執が火花を散らせていた。CIAを巻き込んで、国際的な諜報戦へとストーリーは広がってゆく。冷戦構造が瓦解する前夜にもかかわらず、男たちの見えない、そして熱い戦いが燃えさかる。

十一月の男 ブライアン・
フリーマントル
大熊栄
新潮文庫
 1976年の作品。チャーリー・マフィンシリーズが始まる前年の作品という。老スパイの不幸な物語であるとともに、米ソ間だの政治的駆け引きによってその老スパイと関わらざるを得なくなったもう一人の不幸な男の物語つながっていく。


イコン フレデリック・フォーサイス 篠原 慎
角川文庫
 ソ連崩壊後、経済危機にあえぐロシアで台頭するネオファシスト・コマロフ。民衆の不満を糧にして、ホロコーストに匹敵する陰謀を企てる。エリツィン後の不安定なロシアの政情をにらんだ力作。翻訳者の力もあると思うが、文章は洗練され、バックデータも豊富なフォーサイスならでは。
 テレビシリーズ用に作られた(?)と思われる「ゴルバチョフ暗殺計画」は、ビデオで見たが、イコンはそれをはるかに上回る力作と思う。

売国奴の
持参金
フレデリック・
フォーサイス
篠原 慎
角川書店
 KGBの幹部が視察先のイギリスで、アメリカへの亡命を申し出る。それも突然、CIAと直接接触して。はたして真の亡命者なのか。それともなにかの密命を帯びているのか。

ネゴシエイター フレデリック・
フォーサイス
篠原 慎
角川書店
 オイルショックの再来がソ連に深刻な打撃を与えるという分析から米ソは、情報戦の世界へ。


悪魔の選択 フレデリック・
フォーサイス
篠原 慎
角川文庫
 タンカーがテロリストに乗っ取られた。犯人たちの要求はなんと西ベルリンに拘留中のKGB議長暗殺犯。事件は米ソの友好関係に大きな打撃を与える。暗殺事件の公表を拒むソ連は、犯人を釈放したらSALTUを破棄するという。はたして・・・

騙し屋 フレデリック・
フォーサイス
篠原 慎
角川文庫
 騙し屋の異名を持つイギリスSISのエージェント、サム・マクレディは冷戦終結とともに、引退を勧告された。急転した世界情勢は、スパイたちに過酷な道を強いる。
チャーム・
スクール
ネルソン・
デミル
田口俊樹
文春文庫
 映画化された「将軍の娘」の作者が執筆。ベトナム未帰還兵をテーマにした、アメリカならでは発想だろう。モスクワ郊外にある謎の学校「チャーム・スクール」。そこはベトナムで捕虜にした米兵を講師に仕立て、KGBが米国へ潜入するスパイを教育していた。捕虜たちを救出すべきか、それともソ連に協力するような海兵隊員は抹殺すべきか…。米大使館とKGBの攻防、さらにソ連の奥深くへ入り込む米特殊部隊の作戦など見所は多い。サリンまで登場するのだが、ただ、強いて言えば、現実感がわいてこない。いくらシベリア抑留を実行したソ連といえども、これは荒唐無稽の類という気がするが、でも一気に読んでしまった。作品的には将軍の娘の方が楽しめた。


寒い国から
帰ってきたスパイ
ジョン・ル・
カレ
村上博基
ハヤカワ文庫
 スパイ小説の古典とも言える作品。英米で大ヒットし、映画にもなった傑作。実は恥ずかしながら最近やっと手に入れた。古本屋を歩いてもなかなか見あたらず、せめてレンタルビデオでもと、思ったけどこれまたみつからず、やはりエスピオナージュの時代はおしまいかと、思った矢先に、増刷版を発見。さすが古典だ。


パーフェクト
・スパイ
ジョン・ル・
カレ
村上博基
ハヤカワ文庫
 「寒い国から帰ってきたスパイ」の作者として有名だが、そうとは知らずに選んだ一冊。エスピオナージュは推理小説の意外さと、政治性、駆け引きの妙などさまざまなものが魅力となっている。この作品は戦後の最高傑作とも言われるが、「寒い国」を上回る長編のおもしろさを感じさせる。


レッドオクトーバーを追え トム・
クランシー
井坂清
文春文庫
 保険外交員をしながら、9年もかけて仕上げた処女作とか。徹底した下調べの成果が、みごとにイカされている。映画もよかったが、原作はやはり読ませる。


クレムリンの
枢機卿
トム・
クランシー
井坂清
文春文庫
 トム・クランシーは、精密な調査に基づいたストーリー展開が持ち味だと思う。一連の作品の質は、ここにも生かされている。あのヒット作「レッド・オクトーバーを追え」をはじめ、多くの作品に登場するCIAアナリスト、ジャック・ライアンは、今回の作品でも活躍する。
 レーガン大統領時代に注目を集めたスターウオーズ構想。そういう時代をにらみ、レーザー兵器開発に奔走するソ連の「輝く星」プロジェクトと、それに対立する米の「戦略防衛構想」。その攻防下、ソ連の内部に送り込んだ大物スパイ「枢機卿」に危険が迫る。ジャックは救出のため単身、KGB議長に会見を求める。

レッド・ストーム
作戦発動
トム・
クランシー
井坂清
文春文庫
 シベリアの油田・石油精製基地をイスラム教徒過激派に襲われ、経済的・軍事的ダメージを受けたソ連はペルシャ湾岸の油田を抑えようと計画する。
ペトログラードの
7日間
トム・ハイマン 伏見威蕃
二見文庫
 ロシア革命直前、ロシアとの単独講和を望むドイツ外相がレーニンと密約を結んだ。彼らボルシェビキをロシアへと送り込み、それによってロシア革命を成功させ、単独講和を取り付けるという陰謀だ。その情報をキャッチした英国、さらに米側がそれを阻止しようと乗り出す。諜報戦もからみ、歴史の暗闇を感じさせる作品だ。ただ、期待したものよりは少し薄っぺなら気がしないでもないが…。

極北が呼ぶ ライオネル・
デヴィッドスン
石田善彦
文春文庫
 極寒の大地、シベリアを舞台にしたスパイ小説だ。主人公は、若い生物学者のカナダ・インディアンという珍しい設定。ソ連の少数民族として潜り込み、作戦を遂行後、ベーリング海を経て脱出しようとうする。
 暗号と解読、アクション、冒険小説とスパイ小説のおもしろさを盛り込もうとしたことは確かだが、むしろ私はシベリアというステージそのものに魅力を感じた。そして白人ではない、カナダ・インディアンを主人公に仕立てたことに今日的なものを感じるとともに、リアリティーを増す要因となっている。
クレムリン情報 ロバート・
カレン
高野裕美子
講談社文庫
 エスピオナージュの世界に入れて良い物かどうか。新聞記者が主人公なので。改革派の書記長が病に倒れたという発表が流れるが、保守派のクーデーターの可能性も…。訳者が札幌出身というのに引かれた。
ザ・レッド
ホースマン
スティーブン
・クーンツ
高野裕美子
講談社文庫
 ユダヤ人抹殺を狙うロシアのネオナチが、核ミサイルをイラクに売る。世界は破滅の淵に立つのか。
ロシアン・
メッセージ
ジャスティン
・スコット
後藤安彦
角川文庫
 ロシア生まれの毛皮商が射殺される。犯人は発砲の際に「裏切り者」とつぶやいた。夫の死の影になにがあったのか、妻は真相を求めてクレムリン中枢に接近を図る。ついにペレストロイカを破綻させようとする陰謀に迫る。
エンターティメント
タイトル 筆者 翻訳・
出版社
書評・その他

モスコウ・クラブ ジョゼフ・
ファインダー
高野裕美子
講談社文庫
 レーニンには毒殺されたという説がある。主犯は、スターリン、実行犯は元薬剤師でのちにGRUか、KGBの幹部になったヤーゴダという見方だ。これについては、別の本の書評でも紹介するが、レーニンは公式に残された遺書のほかにもう一通の遺書があったという設定で物語は始まる。エスピオナージュの分類に入れるべきかもしれないが…

ソ連帝国再建 トム・クランシー&スティーブ・ピチェニック 伏見威蕃
新潮文庫
 大統領選挙に敗れた内相が、国家主義者やマフィアと手を組んで、ソ連の再建を目指しクーデター計画を張り巡らせる。これを察知したオプセンターが、阻止作戦を繰り広げる。
 かつての大国としての誇りを取り戻したいと願う世代と、腐敗勢力とは一線を画して新しいロシアを「正しい道」へと目指す動きは、ロシア国内の葛藤を感じさせる。


モスクワ・
コネクション
ロビン
・ムーア
篠原慎一
角川文庫
 映画にもなった「フレンチ・コネクション」の作者が、今度はロシアン・マフィアとKGB、CIAを主人公にロシアの闇を描いた作品。核テロリズムが起こりうるロシアの怖い現実をえぐり出している。
 登場する大物マフィア、ヤポンチク(日本人という意味)は同じあだ名のモデルがおり、刑務所の中でも酒、女、麻薬が自由になる上に、外の世界への連絡も思うがままという設定はあながちフィクションといえないものがある。私は、サハリンでもそういう話を入獄経験者から聞いた。
 非常にスケールの大きいドラマでもあり、読む者を飽きさせない。私の推薦の一冊。

ゴーリキー
・パーク
マーティン・ク
ルーズ・スミス
中野圭二
早川書房
 モスクワの刑事が、米ソの狭間で残虐な殺人事件を追いかける。ハリウッドで映画化されたものよりはるかに暗く、重い内容で、大長編であるが、正直言って、途中で多少読み疲れた。それでも構想力に裏打ちされた力作ではある。
最終戦争 エリック・
L・ハリー
棚橋志行、
青木栄一
二見文庫
 20世紀末、クーデターで一時的に政権を握ったロシア軍の将軍が、ちょっとした誤解から米の軍事基地に核攻撃を行ってしまった。反撃に転じた米だが、全面戦争となれば世界は滅亡してしまう。揺れる大統領の心理。ハルマゲドンはこうして起きるのではと、思わせる怖さがある。
 北朝鮮の韓国侵攻など、憂慮される問題が具体的に現実となるシナリオ展開だが、どこかフィクション臭さが強くてリアリティーを感じないのは私だけだろうか。北緯50度の休戦協定ラインを韓国側から見たことがある。米兵が惨殺されたポプラ事件の現場をはじめ、そこかしこに緊迫感が合った。日本で考える一触即発の危機感とは比べようもない、戦争の現実感がそこにはあった。
 しかし、簡単に南下を許すほど、米韓の迎撃体制も甘くは無い。すこし地上戦の部分を端折りすぎたか。
映画化されたのを見たような気もするが?
ロシアの核 デイル・
ブラウン
伏見威蕃
ハヤカワ文庫
 ロシアとウクライナが核戦争に突入するという想定。アメリカも介入する事態に。予備役将校の空軍パイロットが最前線へと繰り出され、全面戦争の危機が迫る。退役空軍パイロットという作者の経験が豊富に描かれ、航空機に興味をもつ読者にはこたえられないものがあるだろう。


ロシア皇帝の
密約
ジェフリー
・アーチャー
永井 淳
新潮文庫
 ロシア皇帝がアメリカに売却したベーリング海沿いの領土には買い戻しできるという密約条項があったという想定だ。その有効期限が迫る中、条約書の行方を巡って攻防が繰り広げられるだが、この種のものには毛沢東の秘密協定−香港を永久に引き渡すとか、ミステリー物、スパイ物にありがちではあるが、なかなかにおもしろかった。

スターリングラード ジャン=ジャック・アノー
アラン・ゴダール
塙 幸成
角川文庫
 スターリングラード攻防のさなか、たぐいまれな狙撃手として活躍し、英雄として祭り上げられたワシリー・ザイツェフを主人公とした映画化。ドイツ軍の狙撃手と一騎打ちの攻防が描かれているが、ソ連共産党の度し難い非人間性、戦争の残虐さが浮かび上がってくる。

アルハンゲリスクの亡霊 ロバート
・ハリス
後藤安彦
新潮文庫
 スターリンの一冊の秘密ノートが事件の口火となる。そのノートを巡る攻防の渦中、忌まわしい事件がいくつも繰り返される。あたかも旧KGBが暗躍していた時代のように。そしてノートによって、解き明かされたスターリンの秘密は…。ここまでは想像が付く筋書き。後半は、さらにステロタイプ化したロシア共産主義者−という設定に嫌気がしないではない。せめて10年前に読んでいたらリアリティーをもっと感じていたかなぁ。


スターリン暗殺計画 檜山良昭 双葉文庫  日本推理作家協会賞を受賞した歴史ミステリー。実在したスターリン暗殺計画を元に、ドキュメンタリーのタッチで描いた異色作だ。ノンフィクションの部分と、フィクションの部分が区別しがたいのが、魅力でもあり、悩みでもある。
 ノンフィクションとしてみると、かなりデティールが詳しく、歴史物ファンにも読み応えがあるかも。一方、ミステリーとしてはおもしろさを感じる反面、うきうきさせたり、どきどきさせる部分が弱いかもしれない。しかし、トータルにみると、さすが協会賞の受賞作だ。
シベリア鉄道
殺人事件
西村京太郎 講談社文庫  鉄道を舞台に十津川警部が活躍する一連の推理小説は、ついにシベリアの大地へと飛躍した。今では、治安の悪さも指摘されるが、一週間をかけて極東からモスクワへと至る鉄路の旅は、それだけで興味深い。KGB、CIAにマフィアが絡む構図は定食コースではあるが。
 実は、シベリア鉄道は一度乗ってみたいと思いつつ、助手の反対で取りやめた。結局、飛行機でシベリアを横断したのだが、8時間強に及ぶ空の旅は結構きつい。
 ところで、鉄路の旅はそこかしこに密室があり、一方で犯人が逃げやすい条件もある。事件の舞台としては、小説でも、現実でも成り立つが、さすがにシベリア鉄道を舞台にするのは一週間という旅行日程のこともあり、間延びしかねないのではと危惧していたが、それなりに楽しめる展開だった。もっともKGBとかCIAのご登場は、ちょっとお約束の世界かもしれないが、その描き方に関してリアリティーに欠けた気がしないでもない。
ロマノフ王朝の黄金 柘植久慶 角川春樹
事務所
 元グリーンベレーの隊員だとか聞いたが、じつは読みかけのままになっていて…。コメンテーターとしてはともかく、物書きとしてはどうだろうか?

罪と罰 ドストエフスキー 米川正夫
河出書房
 はっきり言って、最初に手にした中学生の時、あまりの暗さと長々とした作品にさじをなげた。一般にロシアの文学作品は超大作が多い。この作品に限らず、ソルジェニーツィンも、ゴーリキーも、その他のロシア文学も私がまともに最後まで読み終えたものは少ないし、いわゆる蔵書もすくない。それが作品の価値を否定するものではないのだが、とっつきにくいのも事実。
 反面、純文学として考えると、これほど人間の生き方を問う重厚な作品群がそろっていることを、ロシア人は大いに誇っていい。ロシアは西洋的でもあり、東洋的でもあり、そしてロシア的でもある−それが私の印象。大らかさと、執拗さと、優しさと、たくましさ、そんないろんな要素を持つ国と国民性をひとくくりにするのは容易ではない。
 だが、映画にもなったパステルナークの「ドクトル・ジバゴ」は、いずれ原作を読んでみたいと思うし、他のロシア文学にも改めて目を向けたいと思っている。
ゴーリキー 井上満
角川文庫
 いわずとしれた、ゴーリキーの名作。従兄弟に勧められて手にしたが、これも読みかけのまま。そのうち読破します。
蒼ざめた馬 ロープシン 工藤正広
晶文社
 テロ指導者であった、サビンコフがロープシンの名でつづった歴史的に有名な作品。五木寛之の作品に「蒼ざめた馬を見よ」というのがあるが、これもツンドク状態。いつか読むつもりですが。
漆黒の馬 ロープシン 工藤正広
晶文社
 全く上と同じ有様。


菜の花の沖 司馬遼太郎 文春文庫  ご存じ、高田屋嘉兵衛の物語。函館そして北方領土、カムチャツカを舞台に海商として活躍した男の波乱に満ちた人生を歌い上げている。日本との交易を求めるロシアとの接触、ゴローニン艦長との人質交換など、歴史的事件にも言及しており、NHKが地元有志の要望を受けてドラマ化し、BSは11月、地上波は12月に放送。
ノンフィクション
タイトル 筆者 翻訳・
出版社
書評・その他

ソ連が満州に侵攻した夏 半藤一利 文春文庫  アメリカの原爆投下が、スターリンに満州侵攻を急がせた背景。ソ連の攻勢を避けたいあまりに「侵攻はない」と決め付けていた日本陸軍、そして日本列島が東西両陣営に分割されずに済んだひとつの要素として、日本が対ソ宣戦布告をせず、ソ連の国際法違反を指摘することにとどめた結果、北海道上陸の口実を与えなかったという分析が興味ふかい。


レーニンを
ミイラにした男
イリヤ・
ズバルスキー
サミュエル・
ハッチンソン
赤根洋子
文春文庫
 レーニンの死後、政権の安定を狙うスターリンは、遺体の保存を命じた。さて、その方法は・・・冷凍か薬品による防腐処理か。遺体の保存にかかわった親子が明かす陰のソ連史。
スパイ
キャッチャー
ピーター
・ライト
久保田誠一
朝日文庫
 英国では発禁にもなった英情報部の内幕ものという。読み物としては、あまり血沸き肉踊る文章とはいえないが。有名な事件の背景に絡むものもあり、興味深い。エンジニヤとして諜報戦の裏側を支えた筆者ならではのリアリティがある。
CIA対KGB  岡村貢  三天書房  KGBについては、フリーマントルをはじめいくつかかかれており、手元にはないが、さらに興味深いノンフィクションを読んだことがある。ただ、KGBに関しては、書き得とでもいうか、よた話をおもしろおかしく書いてある物も少なくないようだ。
 本著は、日本で暗躍するスパイを問題視した政府・自民党が、スパイ防止法の成立に奮闘していた時期と重なっていたと思う。だが、スパイというのは、何もチャーリー・マフィンやショーン・コネリーのような人物ばかりでなく、公表資料から国力を分析するような地味ながら必要欠かせぬ分野もある。むしろそういうデータが、外交上の判断の基礎になっている。映画の見過ぎで法案づくりに走り回るより冷静な議論が必要だ−と、当時思っていた。

ロマノフ家の
最後
A・サマーズ、T・マンゴールド 高橋正訳
 パシフィカ
 最後の皇帝、ニコライ二世の暗殺を巡ってはミステリーに包まれているが近年、DNA鑑定などから、いろいろなことが明るみに出つつある。本書は、やや古い時期に記されたこともあり、最新の鑑定結果とは異なった認識を元にしているが、相当に調査した経緯は伺え、大変興味深い。ただ、やはりいかんせん、推理・推測に論拠を求めた部分も少なくなく、労作ではあるが物足りなさも残る。それを望むのは酷だと思うのだが。


アナスタシア 
消えた皇女
ジェイムズ・B・ラヴェル 広瀬順弘
 角川文庫
 最新のDNA鑑定によると、ニコライ二世の三女、アナスタシアの遺骨が確認されたが、確か二女オリガの遺骨が確認されていないという。アナスタシアについては、自らアナスタシアを名乗る女性が現れ、歴史の舞台に浮かび上がったものの、結局、彼女がアナスタシアであることを確認はされなかった。
 しかし、筆者は多彩な資料を基になお、アナスタシアが惨劇から生き延びたことを訴えてやまない。DNA鑑定の精度が上がったとはいえ、百%の保証はないとする。また、元々のサンプルに誤認が無いとは言えない。あるいは、生き残ったオリガがなんらかの理由でアナスタシアの名を名乗る可能性もないとは言えない。もっともここまで言うと、なんでもありの世界に陥りそうだが。
 アナスタシアを名乗った女性の証言は、なかなかにリアリティをもっていたが、彼女もすでに他界した。映画にもなった、20世紀のミステリーとも言える数奇な運命の女性は果たして本物か。ロマノフ家の最後と併せて読むと、興味深い。はたして真実は。


ミステリー
・モスクワ
ガリーナ・
ドトゥキナ
吉岡ゆき
新潮社
 ご当人が来日した際に、取材してことがあるが、彼女は本来、日本文学をロシアに紹介してきた出版関係者。日本への造詣も深いが、なにより、精神的支柱であり、重石でもあった社会主義国家が崩壊し、混沌としたロシアの現実を生々しく描いている。かつての鉄のカーテンの向こうに暮らす庶民の思いが、伝わってくる。


ロシアン・マフィア 寺谷弘壬 文芸春秋  青山学院大学の教授で、しばしばテレビにも登場している。マフィアの歴史や親分の名簿なども盛り込まれており、マフィアの生まれてきた背景などがわかりやすい。



マフィアと官僚 スティーブン・ハンデルマン 柴田裕之
白水社
 ロシアを牛耳るマフィアと官僚の関わりが、詳しく描かれている力作。寺谷教授の著書とさらに東京新聞のモスクワ駐在記者が描いた「ペレストロイカの500日」(現在手元にないため正確な書名が明らかでないが…)にでてくる話を読み合わせると、実体が浮かび上がってくる。

プロメテウスの
墓場
西村陽一 小学館  原潜の廃棄処理をはじめとする、軍国ロシアの負の一面が浮かび上がってくる。事態はきわめて深刻であるのだが、世界はまだ事態の本質を理解していないのではないだろうか。核テロの恐怖もリアルに描かれており、事態は本当に深刻だと思う。私が訪ねたカムチャツカでも、隠蔽工作が行われ、市民には的確な情報公開が行われているとは言い難い。
新ロシアの基本問題 藤井一行 窓社  まだ読破していません。

ロシアの時代 ダニエル・ヤーギン、セーン・グスタフソン 小関哲哉
二見書房
 混迷するロシアの将来を分析した「予言書」ともいわれる。2010年、ロシアはどうなっているか。田中真紀子首相が決断し、北方領土が返還されると言う大胆な予測もあり、ロシアの変化を予想させるのだが。自民党の長老支配が崩れると、世の中変わってくるだろうが、ロシアはさて…


敵対水域 ピーター・ハクソーゼン、イーゴリー・クルジン、R・アラン・ホワイト 三宅真理
文芸春秋
 レンタルビデオにもなり、ビデオ化もされたノンフィクション。アメリカの近海で事故を起こしたソ連原潜をめぐり、キューバ危機をしのぐほどの緊迫が海面下で繰り広げられていた事実を明らかにした、いわゆる衝撃のドキュメンタリー。
 ソ連側は、アメリカ近海へ深々と入り込み、いざという時の核攻撃にそなえる。アメリカ側もまた、それを迎え撃つべく捕捉する。一触即発の緊迫が、日常的にある恐ろしさを目の当たりにした思いだ。


ロシア経済事情 小川和男 岩波新書  新生ロシアの経済危機を解説。
ソ連解体後
経済の現実
小川和男 岩波新書  ソ連解体後、生産力の高まらないロシアの現実を厳しく見つめている。
入門 環日本海経済圏とロシア極東開発 小川和男
菱木勤
ジェトロ  極東開発に期待する日本海側の各都心の思いを含め、複数のプロジェクトを紹介している。
新・ロシア人 ヘドリック
・スミス
飯田健一
日本放送
出版協会
 先輩からの貰い物だがまだ読んでいません。
ソヴェト学入門 野々村一雄 岩波新書  ソビエト入門のこの一冊に。


ロシアにアメリカを
建てた男
上杉一紀 旬報社  筆者は北海道テレビのプロデューサー。キー局のテレビ朝日が番組にした力作でもある。緩衝国家として建国された極東共和国の実像に迫り、ひとりの興味深い歴史的人物にスポットを当てて成功している。日本との関わりも深く、興味深い一冊だ。
ソビエトとロシア 森本良男 講談社
現代新書
 チャーチルがロシア人を称してなぞの民族といったそうだがロシアの民族性も含めてわかりやすい一冊といえる。

読んで旅する世界の歴史と文化 ロシア 原卓也
(監修)
新潮社  ロシアの歴史、文化などさまざまな「常識」「教養」を身につけるには手軽な一冊


ロシア・ソ連を
知る事典
川端香男里
佐藤経明、中村喜和、和田春樹
監修
平凡社  ロシアの事を知るのに欠かせぬ一冊を選ぶならこれでしょう。
ソ連情報に
強くなる
木村明生、森本忠夫、島村史郎、完倉寿郎、宇多文夫 東洋経済
新報社
 旧ソ連の情報に強くなるためのノウハウを紹介。
ロシアン・ルーレット 今枝弘一 新潮社  暗黒のロシアを、写真でリポートしたリアルの写真集。これをみると、ロシアが怖くなる。犯罪者や旧ソ連崩壊前の社会腐敗の実状、そして血の抑圧、いずれも目を背けたくなるような悲しい現実ばかりだ。サハリン駐在前に読み、気が重くなった。
モスクワ特派員 高山智 朝日文庫  朝日新聞記者のモスクワ生活や仕事ぶりに関する報告。

暮らしてみたソ連
2000日
今井博 毎日新聞社  いわゆる旧ソ連時代の生活の有様を克明にかつわかりやすく、おもしろく描いたルポルタージュ。あらゆる社会の矛盾が、矛盾を克服するために建国された国で日常的なるうっとうしさがよく描かれている。旧体制崩壊後のロシアでさえ、西側の人間が生きるのは大変なのだから、当時はすさまじかったろう。

韓国・サハリン
鉄道紀行
宮脇俊三 文芸春秋  鉄道マニアなら必見。サハリンの鉄道の主要部分は、旧日本領時代に築かれたもので、鉄道ファンならずとも、興味を引かれる。

シベリア鉄道
9400キロ
宮脇俊三 角川文庫  世界最長の鉄道。オリエント特急のような豪華さは望むべくもないが、大陸を一週間かけて横断する長旅には、さまざまな出会いが待っている。今では、治安の悪さも指摘されるが、鉄道ファンなら一度は乗ってみたいのでは。

サハリン 鉄路
1000キロを行く
徳田耕一 JTB  こちらも写真が豊富で、やはりマニアなら一冊ほしくなる鉄道ルポだろう。

樺太鉄道 樺太鉄道 東日本鉄道
文化財団
 私にとっては、非常に関わりの深い本だ。
 東京で運輸省を担当しているころ、北海道出身の松田昌士社長(当時は副社長)が懇談の席で、旧真岡駅の駅舎を保存したいという鉄道マンとしての思いを語ったのを記事化した折りに、旧樺太鉄道の写真集がサハリン洲鉄道局に発見され、JR東日本に贈られたという話を聞いた。
 出版された経緯がわからず、事情を知る人を捜していた。鉄道の先輩の労苦に報いるためにも復刻させたいと願っている話を記事化したのだが、その後、日本経済新聞の文化欄に松田社長がそのエピソードを記したこともあって、話が広がっていった。
 当時を知る人たちの協力や働きかけもあり、ついに当時の資料を交えて平成6年に資料集を交えた復刻版が完成した。それを私はサハリンから赴任した函館で、元鉄道マンの長島さんという方から情報をいただいて函館報道部の記者に記事化させた経緯がある。縁というものは不思議なものだ。

新サハリン探検記 相原秀起 社会評論社  私の後任、相原記者が平成の間宮林蔵になるんだと意気込んで、サハリン各地をルポした興味深い読み物となっている。
ロシア語で話そう
北海道
北海道新聞社&北海道新聞情報研究所 北海道
新聞社
入門書としては、ちょっと難しいかもしれないが、ロシア人に北海道を紹介するには便利。

サハリンの旅
全ガイド
北海道新聞
情報研究所
北海道新聞情報研究所  サハリン大陸棚の石油天然ガス開発の進展に伴い、ユジノサハリンスクの町並みも変貌しているようだが、やはり初めて旅する人にはお勧め。私が赴任するときにこれがあればなぁと、今でも思う。

カムチャツカの旅
全ガイド
北海道新聞
情報研究所
北海道新聞情報研究所  カムチャツカの自然の美しさが豊富な写真でよみがえる。こちらも極東の豊かな自然と水産関係の取引で訪問する人には、よきガイドになるだろう。

サハリン・北方四島 後藤昌美 北海道
新聞社
 写真の美しさに目を見張るものがある。


はるかなシベリア
戦後50年の証言

続はるかなシベリア戦後50年の証言
はるかなシベリア取材班 北海道
新聞社
 私も参加した戦後50年キャンペーン企画の集大成。隠された事実がさまざま明らかになり、あらためてシベリア抑留の不条理を描き出した。私の叔父もシベリアで抑留されており、身近な問題として取り組んだだけに思いが強かった。フォークで新聞に載ったスターリンの写真を差したというだけで裁判に掛けられたケースもあったし、複雑な思いを今も抱いている。
千島占領 ボリス・スラビンスキー ただいま
行方不明
のため
確認中
 北方領土占領の不当さをロシア側から指摘した注目の書。もっともロシア人からすると、金でももらったのだろうの一言でかたづけられかねないが。
 日本へ返還した結果、どんな損失が生じるかという現実的問題より、先の戦争の敗戦国の日本に、血であがなった領土を取り替えされるという政治的、民族的ダメージの方がロシア側にとっては大きな問題なのだろう。「なんで日本に島をかえさんきゃならんのだ。領土は、力で獲得するものであり、国境は戦争の結果を示すものだ」というのが、ロシア人の一般的な考えだろう。それに対して固有の領土論というのは、あまりロシア人には説得力がないかもしれない。ヨーロッパでは、領土は歴史的に力関係で決まってきただけに、日本人とは感覚が違う気がする。


たったひとりで
クリルの島へ
浅井淳子 山と渓谷社  サハリンと北方領土を旅した女性ルポライターの体当たり旅行ドキュメント。心の交流が随所でみられ、この本を読めばロシア人への親近感もわきそう。私の知人も登場するが、今は韓国へ帰国した。

北方四島貸します 吉岡達也 第三書館  色丹を50年間貸します−と、ロシア側が提起し、物議を醸した事件の追跡ルポ。結局、賃貸契約そのものは空中分解したが、色丹の経済は疲弊する一方で、窮状を顧みないロシア政府に島民の不満が高まっている。
北方四島ガイドブック ピースボート北方四島
取材班
第三書館  ビザなし渡航の人には、役立つガイドかもしれないが、すでにロシア側の経済混乱で、1993年当時にかかれた部分と食い違う点も増えていそうだ。


証言 樺太朝鮮人
虐殺事件
林えいだい 風媒社  終戦時、サハリンで韓国・朝鮮の人々が惨殺された。理由は定かではないが、ソ連軍が侵攻してくるなかで、日本側もパニックに陥ったのだろうか、ソ連軍を誘導しているに違いないと、スパイ容疑などを理由に蛮行におよんだようだ。
 その被害者の中に金さんという女性の父親もいた。現地は、サハリン中部の田舎。物静かな町の一角にあった警察署に、引き立てられた金さんの父親らは殺され、建物には火が放たれた。
 金さんは、事の真相を明らかにしようと、賠償請求訴訟を起こし、ロシア側へ歴史的事実を示す記録を請求する。
 私も現地を訪れ、生き証人の話を取材したが、その後、旧KGBの記録が金さんの手に渡り、相当の事実関係が明らかになった。それにしてもなぜ日本人はここまで残酷な行為に走ったのだろうか。

大韓航空機
9年目の真実
アンドレイ
・イレーシュ、
エレーナ・
イレーシュ
川井換一
文芸春秋
 大韓機の事件の際、小樽にいて、この事件を担当した。歴史的な事件であり、サハリン沖まで現場状況を視察したのが、つい先日のことのようだ。この関連ではほかにもNHK記者の執筆したものなど、いくつか読んだが、手元に残っているのは、残念ながらこの一冊しかない。それでもこの一冊以上に衝撃のある本はなかった。
ロシア シベリア
・ウクライナ
JTB JTB  モスクワからカムチャツカまでの旅行ガイド。ロシア関係のガイドは乏しく、赴任前に食い入るように読んだ。
ソ連 日ソツーリストビューロー 日ソツーリストビューロー  ビザの手配をしてくれた旅行代理店が、旧版でよければとサービスしてくれた。旧ソ連・ロシア関係の旅行市場はあまり大きくないだけに、旅行会社も苦労が多いようだが。
ひとり歩きの
ロシア語
自由自在
JTB JTB  旅行用会話を日本語、ロシア語、英語で表記。赴任前に見つからず、帰国してから手に入れた。
収容所社会
ソ連に生きる
別冊宝島 JICC
出版局
 旧ソ連時代に、地下出版された本などをもとにまとめられたソ連の実状。10年ちょっと前に発行された物だが、それ自体が、ソ連崩壊へ向かうプロセスを物語っているようだ。

北方領土 酒井良一 教育社  元北海道新聞モスクワ特派員の作品。歴史的経緯のお勉強にもお薦めの一冊。


サハリン棄民 大沼保昭 中公新書  なぜ韓国、朝鮮人はサハリンに置き去りにされたのか。日本政府に問題はあるが、そこには残留者を政治的、経済的に利用しようとしたソ連やアメリカの身勝手さも見える。
シベリアの生と死 坂本龍彦 岩波書店  シベリア抑留のルポルタージュ。


スターリンとは
何だったのか
ウオルター・
ラカー
白須英子
草思社
 スターリンを歴史的に客観的に見ることはなかなか難しいものがある。今日、混乱期にあるロシアでは、年輩者の間に「スターリンの時代は良かった」という言葉が聞かれる。
 しかし、レーニンが危惧したとおり、スターリンはロシア革命の方向を大きく変えた人物であることは間違いないだろう。スターリンは、ソ連の基盤を作ったかもしれないが、同時に恐怖をまき散らし、本来、国家の主役であるはずの人民を犠牲にしてソ連という権力機構を維持した。故無くして反革命の罪に問われて多くの人が亡くなった事実を考えると、社会主義という歴史的実験の負の側面を考えざる得ない。
 人を幸福にする政治とは、いったいどうあるべきか。資本主義が社会主義に勝ったといわれるが、そうではなく、資本主義は社会主義というライバルを鏡にして社会主義的政策すら取り入れて、自らを修正したからこそ生き延びたのだろう。どちらにも欠点はあるのであり、理想のために人間を犠牲にして、それを厭わない政治はすでに腐敗していると言うべきだ。世の中に「完全なもの」など無いのだ。不完全であり、誤りを犯す危険が常にあることを認識しないと、ドグマが一人歩きして危険だ。


スターリン
その秘められた生涯
バーナード
・ハットン
木村浩
講談社
学術文庫
 権力の亡者として、暴虐の限りを尽くしたスターリンの暗黒面が如実に描かれている。その中には伝聞にすぎないのではと疑われる部分もあるが、トロツキーのスターリン三部作が歴史書、政治書ならば、本編は新聞社会面のスターリンといったところか。
 本書に寄れば、スターリンは政敵も妻さえも、毒殺した張本人であることを示唆している。それが事実かどうかは断定しがたいが、KGBの前身のGPUをはじめ権力機構がスターリンの権力を維持することに主要な勢力を費やし、誤った政策が人民を飢餓に追いやりながらもその責任を権力の頂点に立つものへ波及させなかった事実は消せない。
ロシア市民 中村逸郎 岩波新書  ソ連崩壊後、変わりゆく市民の現状を捉えたリポート。家族の崩壊、形骸化する住民自治など混沌とした政治、経済の狭間で、市民の間では日本への関心も高まっているという。
ユジノサハリンスク
日記
亀井俊介 自費出版  事実上、道庁の出張所となる北海道物産貿易振興会ユジノサハリンスク事務所開設に奔走し、実際に初代所長を務めた筆者のエッセイとルポ。何度もサハリンと北海道を往復し、苦労を重ねた人だが、感情を抑えつつしっかりルポしている点に共感がもてる。ただ、自費出版のため一般の書店には出回っていない。


★その他

◇ 白水社
ロシア基本語5000辞典」 白水社
エクスプレスロシア語」(桑野隆)

◇ 城田俊
現代ロシア語文法」 東洋書店

◇ タマーラ原
トラベルロシア語会話」 柏伸出版社

◇ 山下万里子
ロシア語決まり文句600」語研

◇ 岩波書店
ロシア語辞典」(和久誓一、飯田規和、新田実) 

アイザック・ドイッチャー
 ご存じロシア現代史の語り部。トロツキーに対する思い入れの深さでは、つとに有名だ。かつてスターリンが社会主義の聖者のように吹聴されていたのに抗して、ロシア革命を「左側」から批判したことで、ロシア革命を違う角度から考える呼び水になったのでは。

ロシア革命50年」(山西英一訳) 岩波新書
武装せる予言者トロツキー」(田中西二郎、橋本福夫、山西英一訳) 新潮社
力なき予言者トロツキー」(同) 新潮社
追放された予言者トロツキー」(同) 新潮社
トロツキー・アンソロジー」(山西英一) 河出書房新社
レーニン伝への序章」(山西英一、鬼塚豊吉訳) 岩波書店
ソヴィエト労働組合史」(労働組合運動史研究会訳) 序章社

◇ 読売新聞社編
20世紀 どんな時代だったか 革命編」 読売新聞社

◇ R・ダニエルズ
ロシア共産党党内闘争史」(国際社会主義運動研究会) 現代思潮社

◇ ジェーン・デグラス
コミンテルン・ドキュメント」(荒畑寒村、大倉旭、救仁郷繁訳) 現代思潮社

◇ プレオブラジェンスキー
新しい経済−ソビエト経済に関する理論的分析の試み」(救仁郷繁訳) 現代思潮社

◇ エルネスト・マンデル
官僚論・疎外論」(永井正訳) 柘植書房

レオン・トロツキー
 ご存じロシア革命の立て役者の一人でありながら、スターリンとの路線対立に破れ、旧ソ連では忌み嫌われた人物。学生時代に読んだ記憶では、当初、トロツキーは、レーニンらボリシェビキ(多数派)が代行主義的で人民の意志とかけ離れてむしろ人民に君臨するようになるとして批判的だったが、その後レーニンと盟友関係となり、社会主義国家建設に奔走した。スターリンとの路線対立時には、レーニンがむしろスターリンを批判し、トロツキーを支持さえしていたという。そしてトロツキーはスターリンによって暗殺された。
 歴史に「もし」はタブーだが、トロツキーが生きていたら、ソ連はどんな国家になっていただろうか。そして世界はソ連にどう対峙していただろう。そんな思いで、古本屋を歩き、トロツキーの本を探したのがつい昨日のような気がするが、もう20年以上過ぎてしまった。年はとりたくない。

 −トロツキー文庫−
永続革命論」(姫岡玲治訳) 現代思潮社
レーニン死後の第三インターナショナル」(対馬忠行訳) 現代思潮社
テロリズムと共産主義」(根岸隆夫訳) 現代思潮社
中国革命論」(山西英一訳) 現代思潮社
テロリズムと共産主義」(根岸隆夫訳) 現代思潮社
社会ファシズム論批判」(徳田準、弥永康夫訳) 現代思潮社
 −トロツキー著作集−
1938-1939 上」(中野潔訳) 現代思潮社
1938-1939 下」(長田 一訳) 現代思潮社
1939-1940 上」(酒井与七訳) 現代思潮社
 −トロツキー選集−
コミンテルン最初の五カ年」(高島健三訳) 現代思潮社
レーニン死後の第三インターナショナル」(対馬忠行訳) 現代思潮社
永続革命論」(姫岡玲治訳) 現代思潮社
中国革命論」(山西英一訳) 現代思潮社
スペイン革命と人民戦線」(清水幾太郎、沢五郎訳) 現代思潮社
ソビエト国家論」(立川美彦ほか訳) 現代思潮社
第四インターナショナル」(大屋史郎訳) 現代思潮社
テロリズムと共産主義」(根岸隆夫訳) 現代思潮社
裏切られた革命」(対馬忠行、西田勲訳) 現代思潮社
偽造するスターリン学派」(中井潔、大屋四郎訳) 現代思潮社
 −その他−
1905年・結果と展望」(対馬忠行、榊原彰治訳) 現代思潮社
文学と革命 T」(内村剛介訳) 現代思潮社
文学と革命 U」(内村剛介訳) 現代思潮社
社会ファシズム論批判」(徳田準、弥永康夫訳) 現代思潮社
革命はいかに武装されたか
1905年
スターリン」T−V(武藤一羊、佐野健治訳) 合同出版
黒人革命論」(小林富雄訳) 風媒社
わが生涯」(栗田勇、渋沢龍彦、浜田泰三、林茂訳) 現代思潮社
トロツキー労働組合論」(浦田伸一訳) 三一書房
レーニン」(松田道雄、内田成明訳) 河出書房新社
ロシア革命史」T−V(山西英一訳) 角川文庫

ニコラス・モズレー
トロツキーを殺した男」(若林健訳) 鷹書房

レーニン
カール・マルクス」(長谷部文雄訳) 青木文庫
なにをなすべきか」(村田陽一訳) 国民文庫
トロツキズム批判」(宮森繁、村田陽一訳) 国民文庫
1905年の革命」(全集刊行委員会) 国民文庫
共産主義における左翼小児病」(朝野勉訳) 国民文庫
帝国主義論」(副島種臣訳) 国民文庫
唯物論と経験批判」(寺沢恒信訳) 国民文庫
労働組合論」(全集刊行委員会訳) 国民文庫
経済学評注」(木原正雄訳) 大月書店

◇ ブハーリン
過渡期経済論」(救仁郷繁訳) 現代思潮社