★海賊版

 ユジノサハリンスクには、3軒の映画館があったが、その内の1つはまったく休眠状態だった。映画産業が斜陽というより、社会が混乱して映画どころではないのかもしれないが、ロシア製の作品がハリウッド製の作品に見劣りすることも影響していたのだろう。

 さて、オフィスに近い映画館では、インド映画やロシア製の映画が上映されていたが、ある日手書きの看板を見て驚いた。

 そこには私が子供の頃、夢中になっていた怪獣ゴジラが描かれていた。

 「わざわざユジノでゴジラもないだろう」

 そう思って、その時見には行かなかったのだが、あとになって後悔した。ロシアでゴジラがどう受け止められたか、字幕はどうなったのか、吹き替えだったのか、そんなことが後になってから妙に気になった。惜しいことをした。

 モスクワへ出張したとき、ハリウッド映画の「ミセスダウト」が上映されていた。

 日本でもまだ公開されていない時期で、さすがは大国ロシアの首都と一人で感心していた。もっとも日本の場合、お盆、お正月などの行楽期を中心に、映画興行のスケジュールを設定していることも影響しているのかもしれないが。

 その映画よりももっと、早く出回るのが実はレンタルビデオだ。

 日本でレンタル開始どころか、まだ予告編をやっている最中のものまでレンタルされていることがある。

 ロシアのレンタルビデオは、大抵は一人かせいぜい二人の声優が、吹き替えと言うよりナレーションするようにロシア語でせりふを話している。

 男の声も女の声も、ほとんど同じ人間が一本調子で語るので、日本の日本語版吹き替えほど、臨場感はない。私自身はあまり盛り上がらないのだが、ロシアの人たちは「結構楽しめるよ」と、喜んで見ていた。

 ただ、ロシアのビデオの規格は、日本とはいささか違う。ヨーロッパなどで普及している方式だと聞いた。

 だから、日本製のビデオテープを見るためには、日本から持っていったビデオデッキが必要で、あらかじめ赴任の際に用意して置いた。

 逆にロシアで出回っているビデオを見るには、ロシアの規格に合うビデオが必要で、幸い、うちの支局にはそれがあったため、後の起きた北方領土の地震被害を撮影したビデオテープをみることもできた。

 さて、レンタルビデオのほとんどは、ハリウッド製映画。ソ連という楔がはずれると、やはり娯楽映画の王者、ハリウッド作品は「民族・文化を越えて世界に通じるのだな」と見直した。

 ただ、問題はどうも著作権上の問題をクリアしていない、いやむしろ違法コピーのテープがおおっぴらに出回っていることだ。

 シルベスタ・スタローンの「デモリションマン」は、まだ日本でも公開されていなかったが、知り合いのロシア人が借りてきたテープを一緒に見たことがある。

 冒頭のシーンで、「違法なコピーを禁じます。もしコピーされたテープを見た方はご連絡ください」と英語の注意書きが映し出された時、もうこれだけで私は爆笑した。

 「ロシア人は実にたくましい」

 もちろん著作権は守られなければならないが、ここまで大胆にやられちゃうと、「もう勝手にしなさい」と笑うしかない。

 それにしても中国は、アメリカの音楽、映画に関する違法コピー問題で対策を約束させられて話題になったが、ロシアが俎上に登った話はついぞ聞いたことがない。

 俺がしらないだけかもしれないが、そのうちブッシュ・プーチン会談で、丁々発止の論争が見られるのだろうか。