★ホームシック

 「カク バス ザブート」(なんて名前なの?)

 「ミニャ ザブート タムラ ニェット タマラ」(田村というんだよ。タマラ(女性の名前)じゃないよ)

 支局のスタッフ、ユーラ君の家に招かれた。子どもたちに折り紙でツルを折ってあげたとき、こんなやりとりになった。

 人なつこいその子はユーラ君の二女、アーニャ。かわいい女の子で、私の自己紹介をおもしろがって、しつこいぐらい何回も繰り返し聞いてきた。

 かわいい子どものリクエストに答えるのは苦でもない。ただ、答えているうちに、ふと東京に残してきた子どもの顔が二重写しになった。

 「子供たちはどうしているかなぁ」

初めて新潟空港からハバロフスクへ飛び立つとき、国際線の搭乗ゲートへの通路手前で、見送りの家族が涙ぐんでいた。

 今にも本格的に泣き出しそうになっているのを感じて「こりゃいかん」と、後ろを振り返らずに走るように出国手続きへ向かった。案の定、子どもたちも女房もお袋もその後、泣き出したそうだ。


 ところで、女房に頼んでおいたFAXがその後わが家にも届いた。

 国際電話をかけていると、けっこうな料金になる。その点、ファクスならそれなりの情報を手紙より簡単にしかもタイムリーにやりとりできる。

 いまなら当然Eメールだが。

 さて、さっそく届いた家族の手書きの字はうれしかった。ただ、8歳の娘が「さびしいよ」と書いてきたのにはまいった。

 (注:写真は、サハリン出発前、道新東京支社外報部を訪ねた家族)

 ロシア勤務3度目、通算8年滞在というベテラン商社員が「何がなんでも今年は、日本へ転勤したい」と話していた。

 ロシアで仕事しようと心に決めてこの国へ渡ってきた人でさえ、サハリンは疲れるという。

 日本の豊かで便利な生活とかけ離れているためばかりではないようだ。仕事の面でも、合理的にものごとが進まないストレスがたまっているようだった。そのうえ単身赴任。娘さんが大学卒業を控えて就職に悩んでいるとも聞いた。

 昔良く聞いたのは、「ロシア人は好きだが、ソ連は大嫌いだ」という言葉だった。

 ユジノで知り合ったある日本人記者は、これに対してこういった。「暮らせば暮らすほどロシアが嫌になる。ロシア人が嫌いになる」。

 私は、ロシア人を嫌いにはならなかったが、確かに「ロシア=ソ連」という国と付き合うのは大変だと思った。

 でも、そういうこともあるのだろうけど、家族や友人と離れている孤独感−そういうものもロシアへの苛立ちを煽っていたのではないだろうか・・・