★デパート

 ユジノサハリンスクの中心部には、2つのデパートがある。「サハリン」と「ドームトルゴーブリ」だ。

 デパートは、ロシア語ではウニベルマークというのだが、雑貨店と訳した方が良さそうな感じの品揃えだ。おもちゃから衣料品、家電製品までいろいろあることはあるが、サハリンにしては品揃えが豊富という程度にすぎない。

 店は確かに広いのだが、中央に空間が広がっていて、商品の展示スペースは乏しい。カッサにあらかじめ料金を支払って品物を受け取るパターンは、基本的に変わらず、店員も愛想が良いとはいえない。

 活気がないというか、官僚的というか、どうにも私には調子が合わないのだが、それでもけっこうお客は絶えない。

 かつて四人組み追放直後の中国各地を旅したとき、大きなデパートではあったがやはり同じように無愛想な店員の応対を受けた。やはり競争のない社会では、こうなるのだろうか。最近の中国はだいぶ事情が変わったと聞くが。

                 

 ところで、韓国のソウルではものすごい売り込み合戦にあった。店員さんが「オキャクサン、コレドウゾ」と、それは熱心に売り込んでくる。さすが西側世界だ。学生時代に過ごした大阪の商店のようなにぎやかさだ。ブランドもののコピー商品を売りつけようと、店の奥にまで引っ張り込まれたこともあった。

 ただ、ちょっと違うのは、韓国の店員さんは最初の売り込みの時だけ熱心なのだ。料金とか、品物をほかの店と見比べてから決めようと私が、違う売り場へ回って戻ってきても知らんぷりされてしまった。

 「あれっ?今度は買うつもりで来たのに…。愛想が悪くなったなぁ」

 そんな思いを抱いてしまった。どうして、こういうことになるのかな。ひやかしの客だと思われたのかなぁとも思ったが、後日になって事情がわかった。

 日本で活躍している韓国人作家、呉善花さんの著書「スカートの風」(三交社刊)を読み、韓国の人たちの気質を知ったからだ。

 日本人は、あれこれ品物を見比べて、値段を確かめてそれから何を買うのか決めるのが好きなのだが、韓国の人からするととても優柔不断に見えるのだという。

 日本人は即断即決ができない−と、見下される次第だ。日本なら逆に、衝動買いをする慌て者とさえ見られかねないのだが、文化の違いというのは大きな障壁だ。

 こんなことで互いに相手を非難しあっていたら国際理解など進むわけがない。

 さて、話しを戻してロシアの場合だが、彼らからすると日本人はどう映るのだろうか。

 ある時、韓国製の缶ビールがまとまって売りに出されていた。NHKの記者と2人で買い置きしようと、24本入りのワンカートンをまとめて買い込んだ。

 缶ビールは、出回った時に買いだめしておかないと、いつ手に入るか分からないことが少なくないからだ。

 「きょうはたっぷりとビールを飲んでやろうか」と意気揚々、缶ビールを担いで歩いていると、通り掛かりのおじいさんに声を掛けられた。

 「なんだ、おい商売でもやるのか」

 ロシア人は割と気さくな人が多くて、良く声をかけられる。「マラドイチェラビェク(直訳すると若い人。日本ならさしずめ、お兄さんというところか)」といって、色々聞かれたりもする。

 しかし、この時はどう返事したものか、答えに困っちゃった。とりあえず「全部飲むんだよ」と答えると、ただあきれたような顔をしていた。

 いろいろな品物を買いだめするのは、品不足に悩まされているロシア人の方が得意分野だと思っていたのだが、意外な気がした。日本人はなんでも商売をしたがるとでも思われているのだろうか。

 もともと、ロシア人はウオツカに比べると、あまりビールは飲まないのだが、ウオツカにせよビールにせよ、命に関わらないものは必要なときに買えば良いと割り切っているのだろうか。

 あるいはロシア人でも女性は先行きを考えて買いだめをするが、男は後先考えずに飲んでしまうだけなのか。