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NO.4 |
心臓核医学検査
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札幌医科大学 医学部第二内科講師 中田 智明
心臓核医学検査ってなに?
ラジオアイソトープの歴史ラジオアイソトープ(放射性同位元素、RI)を用い、生体内の情報を画像(シンチグラム)としてみることができる検査を総称して核医学検査あるいはアイソトープ検査といいます。これを心臓に応用しているのが心臓核医学検査です。ほかに骨、脳、肝臓、腎臓、腫瘍など疾患、目的に応じた検査が可能で、今日では世界中で利用されています。
ラジオアイソトープについては、その一種であるウラン(約100年前にベクレルが発見)あるいはキュリー夫人の逸話(ご主人と二人三脚で、ラジオアイソトープの一つラジウムを発見)がよく知られています。多くの科学者の努力でラジオアイソトープは科学の発展、ことに生物、医学の分野では多大な貢献をしてきました。
血液中の微量物質(インスリン、甲状腺ホルモン、女性ホルモンなど)を最も正確に測定でき、また今日盛んな遺伝子解析にも不可欠です。ノーベル賞学者の多くがこの手法を用いています。コンピュータ技術その他の進歩から、今日では安全性の高いラジオアイソトープを用いた画像診断法として広く応用されています。
放射線治療とは異なる
高い安全性
核医学というとなにやらおそろしげですが、その安全性はとてもよく研究され、また広く認識されています。心臓核医学検査で使用されるラジオアイソトープはとくに安全性が高く、乳児から高齢者まで、軽症な患者さんから重症な患者さんまで安全に行えます。
これは、投与するラジオアイソトープの量がわずか(液量で2〜3cc以内)であり、短命な性格(半減する時間が、数時間から数日と短い)で、尿から排泄されやすく、しかも透過性が高くてエネルギーが低いため細胞障害が極めて少ないガンマ線を利用しているからです。
この点で癌(がん)細胞を殺す能力のある強力なベータ線などを発生するラジオアイソトープによる放射線治療とは全く異なります。この検査が原因で不妊、胎児への悪影響(奇形、流産)、癌の発生をみることはありません(ただし、一般X線撮影と同様、妊婦、妊娠の可能性のある女性、授乳婦での検査は充分慎重に行います)。
また、CT検査や血管造影でみられるアレルギー他の副作用はほとんどありません。それでも、検査を受ける患者さんの安全性を確保する努力はつづけられ、安全管理は毎日行われています。
早くて5分、長くても30分
外来検査でも十分可能
心臓核医学検査の中にも目的に応じていくつか種類があります(次表参照)が、基本的にはガンマ線を出す医薬品(放射性医薬品、ラジオアイソトープ)を1〜3ccを静脈内に投与し、撮影して終了です。外来検査でも十分可能で、この検査のための入院は必要ありません。
投与された薬は血流に乗って直ちに心臓に達した後、カメラの下で心臓の写真を撮影します。検査の内容によりますが、早い場合で5分位、長くても30分程度横になって撮影します。その目的により、すぐ写真を撮る場合、10分後、30分後、あるいは60分後にとる場合などさまざまです。撮影がすべて終了すれば普通通りそのまま帰れます。
血液の流れや心臓の働きをみる
RI心血管造影法(心プールシンチグラフィ)法
心筋シンチグラフィ法心臓の正確な機能が測定できます。心臓への血液の流れや心臓の働きをみる検査です。心筋梗塞や心不全の際、心臓の働きを評価することが重要で、診断、治療方針の決定に利用します。
診断、治療効果判定に有用心筋内の血流状態(心筋血流イメージング)、心筋細胞の傷害の程度(心筋血流イメージング)、心筋細胞のエネルギーを作る能力(心筋脂肪酸イメージング)、心臓の働きを調節している交感神経機能の状態(心臓交感神経イメージング)を評価したり、傷害され死んでしまった心筋をみつける(心筋壊死イメージング)、などいろいろな目的に応じた検査があります。
これら検査のいろいろな組み合わせや心エコーなど他の検査との比較から、様々な角度からより正確に、元気な心筋か、病的な心筋か、死んでしまった心筋か、その原因と重症度を正確に判定し、診断と治療に利用します。
負荷心筋シンチグラフィ
心臓核医学検査の中で最も利用されており、虚血性心臓病の早期診断、重症度診断、治療効果の判定にはきわめて有用です。これは一定レベルの運動や薬物投与で、心臓の血流状態とその予備能力を判定します。
心電図診断が困難な場合、異常が心電図にあらわれない場合、手足、腰、あるいは半身が不自由なため運動負荷が困難な患者さんの場合、心臓手術後の評価、などいろいろな場面で利用されています。外来検査として十分可能なため、入院の必要性を決定したり、治療後の経過を外来で判定したり、また手術の必要性とその部位を正確に決定するのにも重要です。
下の図1は虚血性心臓病のため心不全に陥った患者さんのもので、運動負荷時一過性の心筋虚血が出現(矢印)し、心機能が低下しています。このような変化は安静時には見られませんでした。著明な心臓の拡大や機能の低下が認められます。
図2は拡張型心筋症で心不全をおこした患者さんで、心筋血流は正常ですが高度な心機能低下と著明な左室拡大が認められます。現在安定した状態で外来通院中です。
図1
![]() 運動負荷心筋シンチグラム 左室機能解析曲線 |
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3次元心機能・心筋血流表示 |
図2
![]() 運動負荷心筋シンチグラム |
![]() 左室機能解析曲線 |
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3次元心機能・心筋血流表示 |
賢く検査を受けるには
どのようなすばらしい検査や治療でも、不適切な利用はさけねばなりませんし、万能な検査や治療もありません。心臓核医学検査は外来検査としては高額(造影CT検査相当)になるのが欠点ですが、病気の正確な評価・重要度判定・治療効果判定・生命予後推定など極めて重要な情報を提供します。
この検査により適切に治療、入院の必要性を決定し、また逆に不必要な入院、侵襲的検査、治療をさけることができます。心臓核医学検査が自分に必要か否か、どのような情報が自分の病気の診断と治療に必要なのか、あるいは入院や外科的治療をうける必要性はどこまで診断できているのか、主治医に率直に相談しましょう。もし、主治医が判断に迷うようでしたら、より専門なドクターに相談できるよう紹介をお願いするのがいい方法です。

