![]() |
NO.5 |
心臓に雑音がある、といわれたら
手稲溪仁会病院心臓血管センター循環器内科 村上 弘則さん
健康診断や病院で、突然心臓に雑音がある、と言われたら皆さんとても驚くでしょう。しかし、"心臓に雑音"と言われたからといって、必ずしも悲観的になる必要はありません。心臓の雑音(心雑音)の原因は様々です。本物の心臓病もあれば、心臓に全く病気がない場合、あるいは心臓以外に原因がある場合など多岐に亘ります。また、たとえ心臓病があっても放置可能な状態から、すぐ治療が必要な状態まで、これまた様々です。そこで今回は心雑音に関し、どの様なタイプがあり、どんな原因が考えられ、どんな検査で区別ができるかを大まかに説明します。
1)心雑音にはどんなタイプ
心臓には血液を全身に送り出す収縮期と、血液を心臓内に貯めこむ拡張期の2つの周期があります。心雑音はこの収縮期に発生する雑音(収縮期雑音)と、拡張期に発生する雑音(拡張期雑音)があります。これらは心臓内で発生する音で、主に血液や、弁が音源になっています。一方、心臓を包む心膜という薄い膜が原因でおこる雑音があります。これは心臓の外で発生する音です。従って、心雑音には大きく3つの種類があると考えてよいでしょう。
2)収縮期雑音
![]()
特に小児から思春期の方の胸部左上方で聞かれる心雑音は、無害性雑音と呼ばれ、肺動脈弁が音源と考えられています。これは心臓に異常がなくても出現する雑音です。さらに肺動脈弁を音源とする雑音には心臓以外の原因もあります。貧血や甲状腺機能亢進症、運動、発熱など、心臓活動が活発な時に出現する雑音で、これも無害性です。いずれの場合も心臓の治療は不要です。後者はむしろ原因疾患の治療や、状態の改善に気を配るべきでしょう。肺動脈弁の病的雑音の多くは先天性心疾患が原因となっており診断・治療が必要な病気が主体です。
高齢者になると、大動脈弁が硬くなり雑音の原因になります。大動脈弁がよく開いている間は、治療不要ですが、大動脈弁の開放が著しく悪化し(大動脈弁狭窄症)、心臓に負荷がかかると、手術が必要です。大動脈弁狭窄症の主因はかつてリウマチ熱でしたが、近年、高齢者の増加に伴い、加齢が主因となっています。大動脈弁狭窄症は症状が余りありません。しかし、失神、心不全、胸痛が出始めると、数年で急激に悪化します。症状が出現する前に手術が必要なことも多く、経過観察が必要な病気です。
僧帽弁由来雑音の、最多原因は僧帽弁逸脱症です。これは左心室から左心房に血液が逆流する時に発生する雑音です。僧帽弁逸脱症は40−50歳代から徐々に悪化する患者さんがいる一方、殆ど一生変化のない患者さんがいます。軽微な逆流は放置可能です。但し、逆流量が多いと、手術による僧帽弁形成や、人口弁置換が必要となることがあります。また、突然、この雑音が大きくなることがあります。高熱を伴う場合は感染性心内膜炎による僧帽弁の破壊を考え、熱がなければ、僧帽弁を支える腱策という紐の様な組織が可能性を考えます。どちらも緊急の治療が必要になる疾患です。
三尖弁を原因とする雑音は先天性心疾患を除くと、心不全、肺疾患、心房細動という不整脈の結果として出現します。内科的治療が主体ですが、治療で良くならなければ手術を選択します。他に心臓に穴があいている先天性心疾患も収縮期雑音の原因です。軽症では経過観察ですが、ある程度以上の重症度がある場合は手術で穴を閉鎖します。
3)拡張期雑音
拡張期雑音の主因は大動脈弁と僧帽弁です。それぞれ、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症という弁膜症が原因です。大動脈弁閉鎖不全症は、かつてリウマチ熱が原因でしたが、現在では加齢による弁変性が主因です。高齢者の約80%に大動脈弁閉鎖不全症があったとの報告もあり、けして珍しくない病態です。心臓負担がなければ放置可能ですが、心臓が拡大し、負担がかかると、薬剤や手術が考慮されます。僧帽弁狭窄症の原因はリウマチ熱です。最近は患者数が激減しています。軽症では薬剤やカテーテルを使用した治療、重症では手術が選択されます。
4)心膜性雑音
心臓を包む膜、心膜に炎症(心膜炎)が起こると出現します。心膜炎の原因は様々で、ウイルスや細菌による炎症の他に、薬剤や癌などが原因です。胸部打撲、外傷や急性心筋梗塞で起こることもあります。心臓手術後患者さんでは、多くにこの雑音が聞かれます。有効な治療法はありません。心膜が炎症の結果縮んで、心不全がコントロールできなくなると手術が必要になります。
5)心雑音の検査
心エコー検査が最も有効な方法です。心電図や、胸部写真も鑑別の助けになります。いずれも外来で簡便に行える方法です。心臓病の有無、心臓外要因の有無を調べ、問題がない場合、無害性と診断できます。以上のように心雑音と言っても無害性から、心臓病、心臓以外の要因と様々の原因で起こります。いたずらに心配することなく、正しい診断を受け、対処されると良いでしょう。

