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市街地の一角に大きな中庭を囲んで立つ城塞(じょうさい)のような石造りの建物があった。中国から西へ西へと旅を続けてきた私たちは、その造りをひとめ見て、かつてキャラバン・サライ(隊商宿)だったことがわかった。 しかし、いまは宿ではない。入り口の上に「コザ・ハン」と書かれている。トルコ語でコザとは繭(まゆ)、ハンは館を意味する。現役の繭(まゆ)・絹製品の市場である。 500年の歴史を誇るコザ・ハンの2階の回廊に上ると、絹製品のしゃれた店が何十軒も並ぶ。卸が主体のようだが、小売りもする。声高な呼び込みはない。店頭に顔を出した店主が静かにほほ笑みかけてくる。 中庭を見下ろす回廊には店ごとに椅子(いす)を置き、ここで商談をする。主と客のなかだちをするのは紅茶だ。一階に紅茶屋があり、注文すればすぐ出前をしてくれる。トルコの飲み物といえばどろっとした濃厚なコーヒーが有名だが、トルコ人は頻繁に紅茶も飲むのだ。 |
絹の生地専門店をのぞくと年配女性が盛んに品定めをしていた。イスタンブールからわざわざやってきたという。「それはあなた、絹といえばブルサですから」と朗らかに笑い、店主を喜ばせた。 |