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花摘 泰克
写真 飛田 信彦

聖地メッカの方向に向かって祈りをささげる女性たち。これだけの大人数による整然とした祈りの姿を見せられると、偉大なる神の意志が彼らに働いていると思いたくなる
 
 朝10時すぎ、イラン・シラーズの街のマスジェド(礼拝場)にサジャデ(小さなじゅうたん)を抱えた市民が続々集まり始めた。

 「アラーホ、アクバ、アラーホ、アクバ(アラーは偉大だ)」

 金曜日。イスラム教の聖なる日だ。祈りの時間を呼び掛ける声がスピーカーを通してあたりいっぱいに響いている。

 大きな門をくぐると、中は長方形の巨大な広場。正面に故ホメイニ師と現在の最高指導者ハメネイ師の大きな写真が掲げてある。

 長い長いカーテンが広場を二つに仕切る。左側に男、右側が女。男女席を同じくしない。人波はひきも切らず、広場からあふれて、通行止めにしてある外の車道にも広がった。

 イスラム教徒が聖地メッカの方角に向かってささげる祈りは、金曜日は集団礼拝をする習慣がある。シラーズ最大のマスジェドであるここには一万人以上が集まる。

 正午近く、壇上に12歳くらいの少年が登場してコーランの朗詠を始めた。美しいボーイソプラノが独特の韻律で会場に響く。コーランをいかに正しく(言葉の正確さは美しさに通じる)朗詠するかは非常に大切なことだ。
 
 続いて説教と礼拝が始まった。人々は両腕を挙げてぬかずき、時には立ち上がり、何度も何度も繰り返す。一万人の集団が一斉に祈りをささげる光景は壮観である。

 礼拝の取材・写真撮影を申し込んだ際、一種の審問を受けた。

 「イマム(教主)・ホメイニ、イマム・ハメネイを知っているか」
 「もちろん知っている。偉大なリーダーである」
 「彼らをどう思うか」
 「王制を打倒し、民衆を貧困から救った偉大な人である」
 「これを新聞に載せるのか」
 「そう、イランの人の現在の生活を日本の読者に紹介したい」
 「ふむ…。よろしい」

 質問者は礼儀正しくはあったが、笑顔はいっさい見せなかった。

 私たちがシラーズに入ったのは昨年12月下旬。4日前から米英によるイラク攻撃が始まっていた。

 日本政府の姿勢についての質問はなかったが、イスラム批判の記事を書かれることを警戒している様子だった。国民の戒律もゆるみがちなこのごろである。

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