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花摘 泰克
写真 飛田 信彦

イスファハンの中心にあるイマーム広場から始まるゲイサリエ・バザールは長さ5キロに及ぶ。イランの他の都市のバザールと同じく、同業種がそれぞれ一角を形成して名産の手工芸品を売っている
 
 イランの古都イスファハンのゲイサリエ・バザールを見物に行った。歩いても歩いても終わることを知らなかった。

 両側に軒をつらねる店は、象眼細工、エナメル、細密画、銅製の彫刻、銀細工、じゅうたん、更紗(さらさ)、陶磁のタイル、ガラス、宝石、革製品…。

 間口2メートルからせいぜい4メートルの小さな店が、曲がりくねる道に沿ってぎっしりと並んでいる。長さ5キロも続いているという。

 黒いチャドルで頭からすっぽり身を包んだ女性や親子連れ、行き交う流れは尽きないが、雑踏の割には静かだ。店先に立つ人たちは日本人と見てとると「サラーム(こんにちは)」と声をかけてくる。概して控えめで、客もおっとり品よくウインドーショッピングを楽しんでいる。イスラムの人々の敬虔(けいけん)な姿勢がバザール全体の空気に満ち満ちているようだ。

 イスファハンはイラン中央部、標高約1,500メートルに位置している。街の中を流れるザーヤンデ川が豊かな恵みの源だ。

 
 古くは紀元前後に栄えたパルティア朝、さらにササーン朝ペルシャの首都、その後アラブ勢力による征服を経て、16、17世紀、ペルシャ人(イラン人)が復権したサファビ朝時代にふたたび首都となり、ペルシャ文化最盛期にその粋を集めた都として栄えた。

 絢爛(けんらん)豪華なタイルがはってあるモスク(イスラム寺院)や美しい壁画を残す宮殿が並ぶ街は、しっとりと古都の面影を守っている。

 バザールから横道にそれると活気あふれる商店街の一角に出た。ほこりっぽい道路をカワサキやホンダのオートバイが走っている。

 16世紀のキャラバンサライ(隊商宿)が現在も残っていて、倉庫として使われていた。1階は吹き抜けになった長方形の広い土間で、中央に荷物、壁際にラクダをつないだ。2階部分は回廊が巡らしてあり、周りに独立した寝室(15畳ほど)がいくつも並ぶ。

 干しれんがと泥で造った壁が崩れて薄暗いサライは、いまも隊商たちが払い落とす砂漠の旅塵(りょじん)が舞っているかのようだった。

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