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北京から新疆(しんきょう)ウイグル自治区のウルムチ、カシュガル、タシクルガンを経て、ようやくたどり着いたパキスタン国境の峠−。と書けば、旅情もひときわ募るところだが、実は中国側から国境に達することはできなかった。 夏は毎日のように日本や欧米の観光客が走り抜けるクンジェラブ峠ではあるが、「タシクルガンから南は軍の管理地域」(新疆ウイグル自治区外事弁公室)のため、外国報道陣に対する中国側の規制は厳しい。峠越えの出国はもちろん、峠に近づくことも認められなかった。やむを得ず私たちは新疆の取材から5カ月たった11月初め、南のパキスタン側から「カラコルム・ハイウエー」と呼ばれる山岳道路を上り詰め、クンジェラブ峠に達したのだった。 国境「線」というが、ここの場合は地上に線は引かれていない。柵も鉄条網もない。新疆ウイグル自治区とパキスタン北方地域とを結ぶ道路の上に、両国名が書かれた白い標柱が立つばかりである。何ともあっけらかんとした広大な明るい国境だ。 |
隊員の一人がナンを手渡してくれた。小麦粉を練って焼いたパンのようなものだ。気温はちょうど零度。石油コンロで煮出した熱いミルクティーがおいしい。 外に出て、成田の免税店で買った日本のたばこをお礼に渡すと、二人そろって大げさに敬礼してくれた。ともに丸腰で、短銃さえ持っていない。友好関係にある中パの国境は平和そのものである。 あらためて国境上に立とうと標柱へ向かうが、この100メートルがはるかに遠い。高度に襲われ、思うように足が進まない。 ボーっとして眺める前方に氷河が迫る。溶け出す水は南北いずれに向かうのか。南に下ればインダス川を経てインド洋に注ぎ、北に向かえばタリム川となってタクラマカン砂漠の流沙に消える。 |