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嶋田 健
写真 北野 清

最新作を披露するアイマイティさん。この後、私たちの目の前でウイグル族の老人を主題にした墨絵を一気に描いてみせてくれた。筆を持ったとたんに柔和な表情が一変し、声をかけることをまったく許さない気迫だった
 
 中国に「ウイグル美術」というものがあることを新疆(しんきょう)ウイグル自治区の首都ウルムチで教えられた。

 新疆文学芸術連合会の主席を務めるウイグル族の画家ハジ・アイマイティさん(63)の自宅を訪ねると、最新作「楽しい小さな庭」を披露してくれた。大きく体をひねって踊る女性、陶酔した表情で民族楽器を奏でる男性。踊り好き、音楽好きのウイグル族の喜びが画面から飛び出してくるような心浮き立つ絵だ。

 楽しい絵ばかりではない。天津の出版社が発行したアイマイティさんの作品集の冒頭の作品はウイグル男女の悲恋を描いている。説明には「1962年制作」とあるが、絵には「1980」と書き込まれている。食い違いを聞くと、「文化大革命のときに反動的な作品として破られたため、1980年に描きなおしたのです」と淡々と説明した。

 どの作品もわかりやすい。西方的な細密画の趣もある。「私はイスラム教の指導者の家に生まれました。イスラムの教えに基づき、具象的な絵を描くことをたしなめられましたが、だれにもわかる平明な絵を描くことはイスラム教と矛盾しないと確信しています」。名前のハジは、イスラム教の聖地メッカに巡礼したことを示す自称であり、尊称だ。
 
 アイマイティさんは新疆芸術学院を中心に40年間美術を指導してきた。いまも新疆大学などで教える。長男も画家だ。

 ウイグル美術は着実に発展している。新疆各地でアイマイティさんの作品の複製を見かけた。ウイグル族の人々の敬愛ぶりがよくわかった。

 人口12億を超える中国には56の民族が暮らし、漢族が9割強を占める。膨大な漢字文献の蓄積もある。だから、歴史、政治、経済、文化のすべてをつい漢族中心にとらえがちだ。

 一方で55の少数民族の合計も1億人を超える。自治区政府によると、新疆の人口1600万のなかで最も多いのはウイグル族で760万人、漢族の630万人を上回る。奇妙な表現だがウイグル族は「巨大・少数民族」だ。

 自治区の名の「新疆」とは「新しい領土・辺境」を意味する。清朝が中国の中原(ちゅうげん)地帯から見て名付けた。しかし、独自の言語に加え、イスラム教を背景にした豊かな文学、美術、音楽を誇るこの地は、今も昔もウイグル族をはじめとする少数民族の天地である。

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