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花摘泰克
写真 飛田信彦

陰影が見事なコントラストを描く鳴沙山。北京から2000キロも西に離れると、夏の日の入りは午後9時近い。夕日や月がまた美しい。
 

 敦煌(とんこう)の南郊にある鳴沙山(めいささん)は、絵に描いたように『月の砂漠』のムードを観光客に提供してくれる名勝である。

 市街地から緑のオアシス地帯を抜け出してゴビの原を3、4キロも行くと、やがて明るく巨大な砂山がそびえ立つのが見えてくる。太陽光線の具合によっては、目のさめるような白茶にも、光り輝く金色にも見えるだろう。それが鳴沙山だ。

 平地に突然盛り上がったかのような大砂丘群は、南北20キロ、東西は40キロの長さでデンと構えている。手前の西の端に高さ50メートルほどの砂丘があり、観光スポットになっている。そこからずっと先の東の端が仏教美術の宝庫・莫高窟(ばっこうくつ)だ。

 土産物店が日本の温泉町にあるような両わきにずらりと並ぶ道を抜けると、大きな門がある。入場料を払う。外国人20元(1元は15円ほど)、中国人10元。「ラクダニノリマセンカ」「いいえ、乗りません」「サンジュウイェンッ」「いや、残念だけど」「……」「……」。互いに見つめ合って黙って首を振った。

 
 入り口を入ったところにラクダが何頭も待っていた。鳴沙山に抱かれるようにしてある三日月湖・月牙泉(げつがせん)までの往復30元、山のふもとまで行くと60元。記念撮影32元。稜線にラクダの列がキャラバンさながらゆっくり進むのが見える。目をこらすと白人の一行だった。

 ふもとから頂上まで板の階段で登るようになっていて、そり滑り20元。パラグライダー50元。えっ? パラ…?

 驚いて空を見上げると、本当に黄色い砂山の上に派手な色が滑空していた。

 月牙泉のわきにあるレストランにはカラオケの看板。いや、カラオケなんぞ、開放中国ではきょうび珍しくも何ともない。

 少し前、日本のどこかの新聞に鳴沙山の観光化を嘆く記事が出ていたことがある。この数年でずいぶん変わったようだ。

 以前を知る日本人が再訪すると「ああ、俗化してしまった」と、ため息をつくらしい。しかし、夏は24時間営業のこの地で、深夜車座になって酒を飲み『月の砂漠』を大合唱するのも日本人である。いずれも通りすがりの人間だ。

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