樋廻博重・三重大医学部教授が発表
発酵エキスでNK活性 緑茶カテキンはがん破壊 予防薬へ膨らむ期待
キャベツを発酵させたエキスにがん細胞の増殖を抑える成分が含まれていることを、三重大医学部の樋
廻(ひばさみ)博重教授(栄養生化学)が健康食品受託製造会社「東洋新薬」(福岡市)との共同研究で突き止
め、横浜で先月開かれた日本癌(がん)学会で発表した。同社では、がん抑制の健康補助食品として、すで
に錠剤などの製品化を始めている。樋廻教授は緑茶のカテキン成分にがん細胞を破壊する効果があるこ
とを実証しており、「キャベツと緑茶という身近な食品にがん抑制効果があるというのは興味深く、さらに研
究を深めたい」と意欲的だ。(篠田丈晴)
樋廻教授ら研究グループが学会で発表したテーマは、「キャベツ発酵エキスペースト及びエキス末(粉末)
の高齢者のNK活性に及ぼす影響」。
血液中の白血球が変化してできる「ナチュラルキラー(NK)細胞」は、体の免疫機能をつかさどるリンパ球
の一種で、体内で病原体やがん細胞などを攻撃して除去する。この細胞の活性(NK活性)が高いほど免疫
力が強く、がん予防や抑制が期待できる。今回の研究では、免疫力が低下している高齢者を対象に行っ
た。
また、キャベツは、米国国立がん研究所のピアソン博士によって提案された、デザイナーフーズ(健康を
維持し、がんを予防することを目的とした食品)のリストのトップグループに含まれる食品のひとつ。研究グ
ループでは「がんは細胞が酸化すると発生しやすいが、キャベツは酸化を防ぐ成分を多く含むとされる」と
し、実験では、キャベツを乳酸菌で発酵させたものを使った。
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実験は、細かく刻んで液状にしたキャベツに乳酸菌を加えて発酵させ、エキスを抽出。高齢者の血液から
分離した白血球などのリンパ球を、キャベツ発酵エキスの生理食塩水溶液に加え、五日間培養した。この
培養したものと、エキスを加えなかったものを、別に培養したがん細胞とそれぞれ混合し、比較。放射能測
定で破壊されたがん細胞の比率を算出した。
その結果、キャベツ発酵エキスを加えた場合のNK細胞は、加えなかった場合に比べ、NK活性の増強作
用が認められた。高齢者のリンパ球では、キャベツ発酵エキス(ペースト)によってNK活性が増強され、発
酵エキスを加えなかったものより、がん細胞を一四−二〇%多く破壊し、細胞の増殖を抑制することがわ
かった。
ちなみに、同じ発酵エキスでも、ペースト状のほうが、粉末よりも効果が大きかったという。
樋廻教授は「高齢者が継続してキャベツ発酵エキスを摂取すれば、より高いNK活性を維持できる。ま
た、免疫力の増強で、がんの進行を抑制できる可能性も期待できる」と評価。今後の課題については、NK
細胞を増強させるために働いたキャベツ発酵エキスの成分が何であるかを特定することだという。
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その一方で、樋廻教授は、同大生物資源学部の小宮孝志教授(農産製造学)との共同研究で、平成九年
に、緑茶のカテキン成分に胃がん細胞を破壊する効果があることを実証している。
「がんの抑制について、私の研究は二本立て。ひとつは、今回のキャベツ発酵エキスにみられるように、
NK活性を増強させるものの研究。もうひとつは、緑茶のカテキン成分のように、がん細胞を直接破壊させ
るものの研究。この二つがかみ合えば、がん抑制の可能性がかなり広がっていくのではないか」と、樋廻教
授は語る。
緑茶の実験では、培養したヒトの胃がん細胞に、緑茶から抽出した六種類のカテキンを添加した。する
と、約十五−十六時間後には、胃がん細胞のDNAに断片化が起こり、三日目にはほぼ全滅した。
さらに、カテキン類の中でも、最も作用の強い「エピガロカテキンガレード」だけを添加した胃がん細胞で
は、より短い八−十時間で、DNAに断片化が起こり、間もなく完全に死滅した。
樋廻教授は「最近、若い人を中心に緑茶離れが進んでいるといわれる。緑茶をたくさん飲めば、胃の中
にカテキンが長く存在するわけで、がんの予防になるのではないか。でも、ペットボトルや缶の緑茶では薄
いので、効果もそれだけ低くなる」と、緑茶の効果を訴える。
「キャベツと緑茶という身近な食品で、がんから体を守ることができる」。樋廻教授らの研究によって、この
ことが明らかにされつつあり、すでに健康食品としての実用化も進んでいる。
樋廻教授は「さらに研究が進めば、健康食品としてだけでなく、予防食品、さらには予防薬としても利用で
きる」と話している。
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