宴が終わって見えない処方箋
アメリカをはじめ
主要国で経済の停滞が明らかに
世界の市場はこれからどう動く
トッド・バックホルツ
かつては、投資といえばプロの独壇場だった。パソコンで株の売買ができるようなサービスもなかったし、素人が投資上の判断を下すとき、専門家に相談するのは常識だった。
だが、ここ5年ほどの株式市場は、素人がゲーム感覚で勝負できる場になっていた。
親戚のおじさんがソニーに関する最新情報をもっていれば、わざわざ証券会社のブローカーと堅苦しい会話をする必要などない。数字やグラフだらけの退屈なリポートを読まなくても、クリック1つで
簡単に株を買える。
世界中がこんな状態だった。昨年、アメリカとヨーロッパでバブルがはじけるまでは。
試しに、ナスダック(米店頭市場)総合指数と、日経平均株価のチャートを張り合わせてみてほしい。なんとも悲惨なコラージュが出来上がるはずだ。
現在の日経平均は、1989年のピーク時に比べ約3分の1の水準にあり、ナスダックはこの1年間で約60%も下落した。ヨーロッパ市場でも、状況は似たりよったりだ。世界中の株式市場が激しい痛み
に襲われている。
主要国の経済が停滞しはじめたのも、不思議なことではない。アメリカだけでも3兆ドルを超える資産が消えた計算になる。フランス産の高級ワインを気軽に楽しめた日々は、もう過去のものだ。
90年代、アメリカ人が建てる家は巨大化する一方だった。4つ星レストランも顔負けの立派なキッチンや、東京のアパート丸一室分にも相当する広大なバスルームを備えた代物だ。
郊外に住む人々は、こうした豪邸を「マクマンション」と呼ぶ。マクドナルドのようにどこにでもあるからだ。だが今年は、新しいマクマンションの購入が手控えられることは確実だろう。
ドル高は当分続きそう
株式市場の破綻が無視できない理由は、アメリカでは株を保有する家庭が非常に多いからだ。年収5万ドル以上(平均を少し上回る水準)の家庭では、実に85%が株をもっている。
もっとも為替市場をみると、株価の急落にもかかわらずドル安にはなっていない。実際、ドルの対円相場はむしろ高めに推移している。ヨーロッパの経済成長率はここ数カ月アメリカを上回っている
が、ユーロも「集中治療室」からなかなか出られずにいる。
米市場が弱気相場になっているのに、なぜ強いドルを維持できるのか。簡単に言えば、現状ではドルよりましな投資対象がないからだ。そして投資家はいつでも、投資する場所を必要としている。
今の日本市場が、魅力を失っているのはまちがいない。森首相は退陣間近だし、デフレ圧力は相変わらず大きい。世界経済が失速するなかで、輸出企業はなんとか成長を維持しようと必死だ。
ヨーロッパはどうだろう。GDP(国内総生産)成長率でみれば、ヨーロッパはアメリカより高い2.5〜3%を維持している。それでも世界の投資家は、欧州中央銀行(ECB)の政策は無謀で的外れだと考
えている。
FRB(米連邦準備理事会)と違い、ECBは金利の引き下げに断固反対している。世界中でインフレが終息に向かっているのに、ECBがこのまま高金利政策を維持すれば、ヨーロッパの成長にも陰り
が見えてくるだろう。
米経済は秋までに回復
投資家は、米経済は秋までに回復し、ヨーロッパのほうが失速するとみている。とすると、いまユーロを買うのは賢明とは言えない。
こうした状況は、日本にとって明るい材料となるのだろうか。答えはイエスだ。世界経済が息を吹き返すまでは、トヨタやソニーのような輸出型企業にとって円安は有利に働く。
もちろん、それだけで日本経済が完全に復活できるわけではない。だが今の日本にとっては、ほんのわずかな希望でさえもありがたいはずだ。
弱まってきた神通力
アラン・グリーンスパンFRB議長が景気をどうみているかさえ事前にわかれば、金融市場の支配者になれるのに――そう思ったことのある市場関係者は多いはずだ。
だが市場から神のように崇拝されてきたグリーンスパンも、米経済減速のスピードを見誤ったのだろうか。最近は対策が後手に回りはじめた。