◆久保田競・日本福祉大教授「禁煙で天才脳をつくる!」出版
“ご褒美”で「禁煙」案外簡単

脳の快感行動システム逆手 吸う代わりに「別の楽しみ」

 「健康によくないから…」と、たばこをやめたいと思っているものの、何度も禁煙に失敗している人は多いだろう。しかし脳のメカニズムに沿った禁煙法に取り組めば、案外簡単にたばこをやめられるという。しかも、よい意味での我慢をすることで脳の働きを高める効果もあるようだ。これは禁酒や禁ギャンブル、ダイエットにも応用できるらしい。こうした禁煙法を提唱する日本の脳研究の草分け的存在、久保田競・日本福祉大教授(元京都大霊長類研究所所長)に聞いた。

 ■ダイエットや禁酒に対応も よい我慢すれば賢く強い意志に

 「たばこをやめられないのは、喫煙者本人の意志が弱いからなのではなく、脳がニコチン依存症を患っているからです。私の研究から、脳内のからくりをうまく利用すれば、きっと禁煙できます」。久保田教授はそんな思いから、最近、『禁煙で天才脳をつくる!』(KKベストセラーズ、千四百円)を出した。

 では、なぜ簡単にはやめられないのか。それは、ニコチンが快感をもたらすことを脳が学習してしまっているかららしい。脳内に入ったニコチンが中脳皮質辺縁系(快感行動システム)に働き、快感を起こすドーパミンを誘発する。「禁煙が難しいのは、理性の及ばないところでニコチンが脳にかかわっているから。それを逆手にとって、そのからくりを理解できれば、ニコチン依存症から抜け出す道が見えてきます」

 そこで、久保田教授が提唱したのが、「NOGO(ノーゴー)禁煙法」。「たばこを吸うことをやめる」のではなく、「積極的にたばこを吸わない」というNOGO行動を学習するものだ。その際、たばこの代わりに、“ご褒美”として「おいしい物を食べる」「趣味の推理小説を読みあさる」など、快感行動システムが機能するような禁煙行動を脳に学習させることも効果的という。

 「脳内に一度築いた行動ネットワークを破壊させる方向で禁煙するのではなく、新たなネットワークを別に築くことで禁煙を成功に導くわけです」

 脳のメカニズムを説明しておくと、大脳皮質の神経細胞が働くとき、興奮細胞が興奮性シナプス電位を出して神経情報を伝え、抑制細胞が抑制シナプス電位を出して興奮性細胞の働きを抑制する。つまり、NOGO行動で抑制細胞を活発化させれば、禁煙が可能になるというのが、久保田教授の考えだ。

 ヒトは脳の司令塔である前頭連合野からはさまざまな行動を指令するのだが、「たばこを吸うことを我慢しよう」と思うのではなく、「たばこを吸わないという行動をする」努力が大切なのだという。悪い我慢はせずに、よい我慢をするということなのかもしれない。それが、NOGO指令を強くするトレーニングとなり、最終的にはたばこを見ても手を出さない意志が作り上げられていく。

 久保田教授の教え子にもヘビースモーカーがいたが、仲間と一緒にこのNOGO禁煙法を実践したところ、そのほとんどがたばこをやめられたという。また、著書の中で、報奨金を出して社内の喫煙者をゼロにした会社のニュース報道を紹介。「たばこをやめることで得られるよいことを会社が用意した。NOGO喫煙法を実践し、成功した例でしょう。ただ、この会社はもっと正確な追跡調査をして学会で発表するなどして、本当に有効な禁煙法であることを示してほしい」

 こうしたNOGO行動は、禁煙だけに効果があがるというものではなさそう。脳のからくりからすれば、禁酒、禁ギャンブル、ダイエットなどにも効くと思われる。さらに脳が鍛えられるから賢くなるという。「仕事や学習のゴール、目的を決め、どのようにゴールに近づくかを考えるようになる。そのプロセスを記憶して、記憶したことを実行に移すという繰り返しで、成功サイクルが脳内でしっかり回転し、賢く仕事のできる人になります」

 今月からたばこが値上げされた。どうしてもたばこをやめたい人は、これを機に、一度「NOGO禁煙法」に取り組んでみてはどうだろうか