◆低空飛行症候群

ミネラル不足で体内不健康状態

マグネシウム摂取が重要

 豊かな生活のなかで健康そうに見えるのに体内は不健康…。カルシウムやマグネシウムが慢性的に不足しているため、
心筋梗塞(こうそく)や肩こりなどの原因を抱えている、そんな現代人特有の状態を「低空飛行症候群」という。ここで注目さ
れるのがマグネシウム。カルシウムよりなじみが薄いだけに見落とされがちだが、“低空飛行”を軌道修正するカギを握って
いるようだ。(岡崎秀俊)

 「低空飛行症候群」と名付けたのは、安井内科の安井昌之院長(六一)=和歌山市。『水とミネラル新常識』などの著書が
ある。安井院長は和歌山県立医大でミネラル欠乏食を与えたラットの飼育実験を行った。この結果が「衝撃的」だった。

 カルシウム欠乏食を与えるグループとマグネシウム欠乏食を与えるグループの二つに分けて、三カ月の予定で実験を開
始したが、マグネシウム欠乏食のラットは一カ月ほどすると突然、死に始めて実験終了まで生きるケースはほとんどなし。
カルシウム欠乏食組は実験期間を生き通した。

 「この結果はマグネシウムが欠乏すると、最悪の場合、突然死を招く危険があることを示唆している。しかし死因の“主役”
と考えるより、マグネシウムが“脇役”として芝居に登場しないために舞台全体が回らなくなったと考えるほうが正確でしょ
う」と安井院長。

 カルシウムが不足して血中の濃度が低下すると副甲状腺ホルモンが骨からカルシウムを出すよう指令。血液中に動員さ
れた大量のカルシウムは細胞膜を通って細胞内に入り、沈着すると動脈硬化症などになってしまう。そこで細胞内へのカル
シウムの侵入を防ぐのがマグネシウム。縁の下の力持ちというわけだ。

 カルシウム二に対し、マグネシウム一の摂取比率がカルシウムの細胞内への侵入を防ぐのに有効といい、量は「日本食
品標準成分表」に基づく一日当たりカルシウム約六〇〇ミリグラム、マグネシウム約三〇〇ミリグラムが理想。しかし日本で
はカルシウムの大切さが強調されてきた影響もあってカルシウムの比率が高くなっているという。食事調査で、カルシウム
の比率が高い国ほど、虚血性心疾患死亡患者が多い−というデータもあることから、マグネシウムの摂取が重要となってく
る。

 安井院長によると、マグネシウム欠乏症状(低マグネシウム血症)では、疲れやすい、肩こり、めまい、筋肉のけいれんなど
のほか、記憶障害などの精神的不調がみられ、欧米には「アルツハイマー病」との関係を強調する研究者も。病因の不明
な慢性疲労症候群がマグネシウムの投与で改善された例もある。

 「低空飛行症候群」は「食べたいものを食べ、飲みたいものを飲んでいても、体内のミネラルが低空飛行するように慢性的
に低い値で推移する状態」。砂糖を多量に使った菓子などの糖分の作用で尿中へマグネシウムなどが排出されやすくなる
ことや、インスタント食品などの日常的な摂取、ストレスが原因として考えられている。

 安井院長は、最近、少年が「キレる」のも低マグネシウム・カルシウムが要因とみており、同症候群からの軌道修正で大切
なのはやはり食事。マグネシウムを多く含むのは、青のり、ひじき、ココア、ゴマ、アーモンド、小麦胚芽(はいが)、抹茶、煮干
しなどで、安井院長は「加工された出来合いのものではなく、自然から採れた一次的なものを食べるのがいい。戦後の高度
成長期のころの食卓を思い浮かべてください」。併せて硬度の高いミネラルウオーターからの摂取も有効という。