脳梗塞(こうそく)のうち、動脈硬化から血管が狭くなり血栓ができて詰まる「アテローム血栓性梗塞」が、ここ十数年の間に急激に増えていることが最近の研究で明らかになった。血栓性梗塞の原因として、とくに動物性の脂肪摂取量が多い食生活との関係が指摘されており、従来「欧米型」といわれたアテローム血栓性梗塞が、日本でも主流になりつつあることがわかった。国立循環器病センター内科脳血管部門の峰松一夫部長に聞いた。(大串英明)

 脳梗塞はいわゆる脳卒中の部類だが、もう一方の、血管が破れてしまう「脳内出血」「クモ膜下出血」と違って、血管が詰まって機能障害を起こし、まひや失語に至る。これまで脳卒中全体で語られることが多く、高血圧との因果関係が強い脳内出血などとの混同が、病態のあいまいさを生む要因となっていた。

 脳梗塞には、(1)脳の中の細い血管が狭くなって詰まる「ラクナ梗塞」(2)前述の比較的太い動脈が狭まり、血栓が付着して血管が詰まる「アテローム血栓性梗塞」(3)心臓でできた血栓が飛んできて詰まる「心原性脳塞栓症」の三タイプがあるが、今回「アテローム梗塞」の増加ぶりがいくつかの疫学研究で明らかになった。

 峰松部長によると、長年続けている福岡県久山町の住民調査では、一九六〇年代に全体の79%だった「ラクナ梗塞」が八〇年代に41%へと激減した半面、「アテローム梗塞」はそれぞれ15%から33%へと増えている。国立循環器病センターが平成十年から厚生労働省の委託で行った全国調査では、「ラクナ梗塞」が36・3%に対し、「アテローム梗塞」は31・3%。昭和五十三年から十九年間行っていた同センターの入院患者調査と比較すると、「ラクナ梗塞」が4%減なのに、「アテローム梗塞」は10ポイントも上昇していた。

 さらに地域別では、首都圏と京阪神地域で「アテローム梗塞」の割合が「ラクナ梗塞」と逆転してトップとなり、他地域と比べて高脂血症の患者が多いこともわかった。

 この変化は何を意味するのか。峰松部長は「第一に、都市部を中心にしたライフスタイルや食事の欧米化がある。ご飯、魚中心の生活から肉中心となり、国民栄養調査でも明らかなように動物性の脂肪摂取量が格段に増えた。こうした脂肪摂取の動きがラクナ梗塞が減って、アテローム梗塞を相対的に増やす原因となっている。高血圧症との関連が深いラクナ梗塞については、減塩対策や降圧療法の徹底などで減ったのだろう」と話す。

 国際比較すると、オーストラリアではアテローム梗塞が68%と極端に多いが、外国ではおしなべてアテローム梗塞の割合がラクナ梗塞より高い。日本人の脳梗塞も急速に欧米化しつつあるようだ。

 同じアテローム梗塞でも、動脈硬化の起こりやすい個所は、動脈が頭蓋内に入るところと首の部分、つまり頭蓋外の頸部(けいぶ)の頸動脈。これまで日本人は圧倒的に頭蓋内だったが、同センターでの患者調査では、最近、頭蓋外(首)の方に逆転し、集団検診結果でも、50%を超す頸動脈狭窄性病変が平均4・4%(男性7・9%)も見つかり、これもまた欧米の水準に近づいた。

 「首タイプの人は、心臓の冠状動脈に動脈硬化病変を持っている確率が非常に高い。いずれにしても、脂肪絡みのアテローム梗塞が要注意。ラクナ梗塞は症状が軽いが、アテローム梗塞は介護が必要となる割合が40%と重い脳梗塞になる。要因として、やはりコレステロールに行き着くが、実は日本人の女性はすでに米国女性より上回る数値で、この傾向が続けば十年後には深刻な事態となるだろう」

 外国を含めた一連の疫学研究で、脂肪との関連も解き明かされつつあるが、最近注目されているのが高脂血症のスタチン薬剤。国外ではすでに心筋梗塞ばかりか脳梗塞についても「30%の抑制効果」が示されており、日本でも年内にはスタチン療法の研究が始まる予定だ。