FOCUS ON TECHNOLOGY
プライバシー
Guarding Online Privacy
あなたのデータは大丈夫?
インターネット上の個人情報を悪質な業者から守るには
http://www.nwj.ne.jp/members/articles/20000614/FT_pri.html
インターネットにはまって、あちこちのウェブサイトをのぞいている。60年代グッズのオークションをチェックしたり、イギリスの大学に留学するための必要事項を調べたり。そんなユーザ
ーのところへ、いきなり不思議なメールが舞い込む例が増えている。
あるメールは、『イージー・ライダー』のビデオセールのお知らせ。スコットランドの銀行に口座開設を勧めるメールもあった。どうやって興味の対象がわかるのかって? もちろん、インタ
ーネットに残された痕跡を調べたのだ。
オンラインでの個人データの収集をめぐる論争が、ここへきてアメリカで再燃している。きっかけは連邦取引委員会(FTC)が、消費者保護のための法規制強化に支持を表明したこと
だ。FTCは3度目のウェブサイト調査の後、自主規制を支持してきた従来の方針を転換。過半数のFTC委員が、「オンラインの情報収集に関する基本的基準」を定める法案の採択を連邦
議会に勧告した。
これに対してアメリカ・オンライン(AOL)、インテル、ヤフーなど100社で構成する業界組織、オンライン・プライバシー・アライアンスもすかさず反撃。「子供のオンライン・プライバシー保
護法」などの既存の法律を活用したり、業界の慣習を変えるだけで十分で、新たな立法措置は必要ないと主張した。現に個人情報の取り扱い基準を明示するサイトは、2年前の14%か
ら90%に急増していると、アライアンス側は言う。
自分の情報は自分で管理する
だが1999年のFTC調査を担当した専門家によると、アライアンスの数字は98年と2000年で調査対象のサイトが異なっているので、実態を正確に反映しているとはいいがたい。個人情
報の取り扱い基準を公表している商用サイトは全体の3分の2にすぎないと、ジョージタウン大学のメアリー・カルナン教授(経営学)は指摘する。
FTCは、企業が個人情報の取り扱い基準を開示するだけでは不十分だと考えている。この手の開示文書は書き方があいまいで内容がわかりづらいか、難解な法律用語が多くて消費
者には理解しにくいケースが多いと批判されている。
連邦当局が商用サイトに求めているのは、もっと徹底した消費者の保護措置だ。具体的には、個人情報(商品購入やサイトへのアクセス履歴)の利用に関する決定権と、情報の正確
さをチェックする機会、個人データの保護手段をユーザーに提供するよう求めている。
FTCが商用サイトを無作為抽出して調べたところ、こうした基準を満たしていたサイトはわずか20%。人気サイトでも50%以下だったという。
こうしたFTCの懸念はユーザーの間にも広がっている。マサチューセッツ州の調査会社フォレスターリサーチのアナリスト、クリストファー・ケリーによれば、消費者の3分の2はネット上
での個人情報流出を心配している。
企業がネット上で膨大な情報を収集していることはまちがいない。「企業は大量の個人情報を集め、名前や趣味、生年月日、クレジットカード情報を含めたプロフィールを作っている」
と、情報取り扱い基準の開示運動を展開しているカリフォルニア州の非営利組織トラストeのデーブ・スティアは言う。
多くの企業は、収集した情報は顧客サービスの向上に役立っており、悪用される心配はないと主張する。集めた情報を活用せずに放置しているケースもある。「そうした企業は集めた
情報の利用法がわからないのだろう。しかし、半年か1年後には利用法を見つけだすかもしれない」と、フォレスターのケリーは言う。
新しいオンライン・プライバシー保護法が、すぐに議会で成立する可能性は低い。だが上院商業科学運輸委員会のジョン・マケイン委員長は、6月13日にオンライン上のプライバシー保
護に関する公聴会を開く予定だ。
当面、消費者がとれる自衛策としては、たとえば身元を明かさずにネット検索ができるアノニマイザー・ドット・コム(http://www.anonymizer.com)のようなサービスを利用する方法が考
えられる。ゼロノレッジシステムズ(http://www.zeroknowledge.com)の「フリーダム」など、個人情報を隠す暗号化システムもある。
ボーダーラインはどこに?
今後に期待がもてそうなのは、プライバシーク(http://www.privaseek.com)の「ペルソナ」。個人情報をどこまで相手に知らせるかをユーザーがサイトごとに決められるソフトだ。たとえ
ば、別の会社とデータを共有しているサイトはスキップするように設定することもできる。ただし今のところ、この技術に対応しているサイトはごくわずかだ。
このほかに、名前とメールアドレスをダミーの情報に置き換え、送信者の特定を不可能にする「匿名リメーラー」を使う手もある。ワシントンの非営利組織、電子プライバシー情報センタ
ーのサイト(http://www.epic.org)には、リメーラーやその他のプライバシー保護手段のリストが掲載されている。
こうした方法をうまく組み合わせれば、たとえばアマゾン・ドット・コムでよく本を買うとか、癌を克服した人々のオンライン・ディスカッションに参加しているといった個人情報が、悪質な小
売業者に使われるのを防ぐことができる。
しかし、もっと重大な問題が残っている。オンラインでの個人情報の収集に、どこで歯止めをかけるべきなのか。今後数カ月間、FTCと業界の間で激しい論争が展開されそうだ。
「重要なのは法制化すべきかどうかではない」と、現在はオンライン・プライバシー・アライアンスの顧問を務める元FTC委員のクリスティーン・バーニーは言う。「経済状態や医療記録、
子供に関するデータなど、プライバシーにかかわる大切なデータをどうやって保護するのか。それほど重要でないデータについては、消費者の権利をどこまで認めるのか。今回の議論で
はそれが問われている」
この次にインターネットに接続するときは、誰かに見られていることを忘れないようにしよう。
ユーザーの自衛策
個人情報の取り扱い基準をチェック 基準が開示されていなければ、そのサイトには2度と近づかないこと。データがどう使われるかわからない
開示文書を熟読 利用者の個人情報を売却する権利を留保しているサイトもあるから、注意が必要
「足跡」を隠す 名前やメールアドレスを隠してくれるネット上のサービスやソフトウエアを利用しよう
THE PULSE
習慣というものはなかなか変わらない。インターネット利用者のうち、オンラインショッピングを利用しているのは43%。57%はいまだに通信販売のカタログを見て電話で商品を注文してい
る。テレビショッピングの愛好者も約13%いた。
資料:ODYSSEY AND THE INDUSTRY STANDARD
ニューズウィーク日本版
2000年6月14日号 P.76