◆糖尿病「境界型」から早期治療を 山形・舟形スタディー調査
心筋梗塞/脳梗塞 リスク、正常な人の2倍

食後の高血糖が問題 空腹時検診見直しを

 糖尿病予備軍の中でも糖負荷試験2時間値が「境界型」といわれる人は、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞を起こすリスクが正常な人の2倍にのぼることが、山形県舟形町の疫学調査(舟形スタディー)で明らかになった。一方、空腹時血糖値だけ「境界型」の人は、差がないことが判明。これは明らかに食後の高血糖に問題があることを示しており、従来の空腹時血糖中心の検査方法や発症予防の根本的な見直しを迫られていることがわかった。同調査を担当した山形大学医学部臨床検査医学の富永真琴教授に聞いた。(大串英明)

 糖尿病治療は一九二一年にインスリンが発見されて以来、血糖値をできるだけ正常値に近づければ、腎症・網膜症などが起きないことがわかっている。しかし心筋梗塞、脳梗塞などの大血管障害は必ずしも減ってはいない。予備軍は糖尿病にならないように、また糖尿病になってから本格的な治療を、という考え方でいいのだろうか。山形県舟形町の四十歳以上の全住民を対象に十数年に及ぶ糖尿病有病率調査「舟形スタディー」は、これまでの常識に挑戦する形で始まったという。

 「舟形スタディー」の特徴は、心筋梗塞と脳梗塞だけに絞って、検診結果の「正常」「境界型」「糖尿病」の群から、どのくらいの人が亡くなっているか調査したこと。初めに負荷後二時間値で調べたところ、「正常」な人に比べ、その「境界型」の人は約二倍の死亡率で、「糖尿病」の人は約三倍だった。さらに、この群をもう一度ばらして、空腹時血糖値だけから入れ直して調べたところ、「正常」な人と「境界型」の人とでは差がなかった。

 「空腹時血糖値だけ境界型の人は、それほどリスクは高くない。負荷後血糖値の方がより問題で、動脈硬化に進むリスクも高いことがわかった。糖尿病予備軍として放っておくのでなく、負荷後血糖値の『境界型』の段階から積極的に治療していく必要がある。これが舟形スタディーから導かれた結論」と富永教授。

 もう一つ注目されるのは食後の高血糖。負荷後の血糖値を調べた結果、高血糖ということは「日常生活でも食後の血糖値が高くなる人たちではないかと思われる」という。つまり食後高血糖の人たちほど、心筋梗塞などに進むリスクが高くなるというわけだ。

 富永教授は「従来の検診が、生活習慣病が反映しない空腹時で見ているのは矛盾ではないのか。反映した食後血糖で判定すべき」とも語る。
食事の欧風化

 毎日、食後に血糖値が高くなり、動脈硬化が進む。その細かなメカニズムはまだよくわからないが、高血糖がフリーラジカルなどを産生し、血管内で慢性の炎症が起きてくる。食後高血糖という大波は、血管内皮を侵食し、動脈硬化をもたらして不安定なプラーク(粥巣)があったりすると、心筋梗塞などを起こすという図式だ。

 今回の舟形スタディーでは、こうした血管の炎症度を測る高感度CRP値も併せて調べており、空腹時血糖値だけが「境界型」の人と負荷後血糖値が高い「境界型」の人を比べると、後者の方が高いことがわかった。富永教授は「負荷後高血糖の境界型の人、食後高血糖の人は、慢性的な血管の炎症が起こっていて、血栓症・心筋梗塞・脳梗塞を起こすリスクになっている」と話す。

 こうした大血管障害の発症を防ぐ手立てとして、食事・運動などの生活習慣を見直すことで、糖尿病の発症率が半分くらい減るという海外の研究成果がある。もう一つ、うまく防げない人たちに対しては、血糖値をできるだけ正常にまで下げる薬物療法を勧める。食後にタイミングよくインスリンを分泌させ、食後高血糖を速やかに抑えるナテグリニドなどの経口血糖降下薬が登場している。

 富永教授は「糖尿病に対する挑戦は始まったばかり。これからは予備軍から心筋梗塞や脳梗塞を起こさないことを主軸に、検査や治療方法をいかに改善していくか。日本でも食生活の変化などで負荷後や食後高血糖の人たちが増えている今こそ本格的に取り組む努力をしていかなければならない」と話している。