改訂診療ガイドラインに反映へ 予防には「減塩運動」が効果的
高血圧はこれまで加齢現象として一時、下げ過ぎは良くないとされていたが、最近の研究で24時間確実に血圧を下げることが最重要で、とくに糖尿病の合併がある場合には、従来の正常血圧値よりさらに1けた、10mmHgずつ下げることが必要とわかってきた。日本高血圧学会では、これらの研究成果を、次期2005年に改定を行う診療ガイドラインに反映していく方針。高血圧の最新治療・予防法について、日本内科学会理事長で東京大学医学部内科学の藤田敏郎教授に聞いた。(大串英明)
高血圧の治療では、三十年ほど前から、血圧を下げると脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などの合併症が防げることが明らかになっている。その後、血圧を下げる以上の効果があるとして、心臓や腎臓を保護して合併症を予防する効果を持った「レニン・アンジオテンシン系抑制薬」などが登場し、高血圧治療に大きな変化をもたらした。
今回、「高血圧治療には、血圧を下げることが最重要」と改めて確認されたきっかけは、昨年暮れ、米国で高血圧患者約四万二千人を対象に八年間にわたって行われた臨床試験「ALLHAT(オールハット)」(米国国立心肺血液研究所実施)の研究結果から。「以前は、高血圧はいわば加齢現象というとらえ方があり、むしろ血圧を下げ過ぎてしまうと脳梗塞などの脳循環不全を起こすのではといわれた。でも、やはり血圧が高いことは悪いということがはっきりした。何よりも血圧を下げることが優先。しかもかなり低いレベルがいい」と藤田教授。
今回の大規模臨床試験「オールハット」の特徴は、現在の日本の正常血圧値である収縮期一四〇/拡張期九〇mmHg未満をさらに飛び越え、血圧値を一三五/七五まで下げて実施していること。その結果、心筋梗塞や脳卒中の発症が減少し、効果についても各薬剤で差がなかったことがわかった。また、別の研究で、(1)糖尿病を伴う高血圧などリスクが重積した人の場合、既に一三〇/八〇を超えると高血圧になってしまう。従って通常の正常値より一〇下げて積極的に治療を施した方が効果的(2)夜間、昼間を通じて家庭血圧を測り、二十四時間確実に下げる必要がある?などが明らかになってきた。
藤田教授は「思い切って一四〇/九〇以下の数値で臨床試験をしたことでさまざまなことがわかってきた。日本では高めに設定されているお年寄りの基準値も、欧米並みに全年齢通じ一四〇/九〇に、次のガイドラインでは改定していくことになるだろう」と話す。
藤田教授が血圧を下げる方策として唱えているのが、「減塩運動」と前述の「レニン・アンジオテンシン系」を抑制することの二点。厳しく減塩すればするほど血圧が下がるからだ。
本来人間の体には、体内の塩分が多ければ排泄(はいせつ)し、少なければため込んで血圧を維持するレニン・アンジオテンシン系というホルモンのシステムが備わっている。塩分をとりすぎても、レニン・アンジオテンシン系が低下して血圧が上がらないような仕組みになっており、いわば両者はシーソーの関係にある。しかし、高血圧になりやすい人は逆に過剰に亢進して血圧が上がり、脳や心臓の障害を生じる。そこで、レニン・アンジオテンシン系抑制薬を使いながら減塩すると、より効果的ということもわかってきた。
藤田教授によれば、血圧が一四〇(収縮期)周辺のいわゆる軽症ないし高血圧予備軍の人でも、生活習慣に留意した非薬物療法をすれば、三割ぐらいの人が正常に戻るというデータがある。その一方で、実際に心筋梗塞や脳卒中を起こした人の七、八割が一四〇?一五〇程度だ。軽症の高血圧といえども安心できない。
「たとえ軽症の高血圧でも他のリスクが加わると、心血管病の発症率が跳ね上げられる。例えば家族に高血圧や糖尿病の人がいるなどの遺伝的要素も要注意。肥満やたばこ、ストレスなどの環境因子が重積するほど、心血管病になる危険性が高まる。家庭で測って一三五/八五以上あれば、非薬物療法をしてしっかり血圧を下げることが重要な予防法となる」と藤田教授は話している。