生活改善のための『健康十訓』

 高血圧の約九割を占める「本態性高血圧」は原因が特定されていない。しかし「原始人に高血圧はなかった」(荻原俊男・大阪大学教授)との言葉から、高血圧を引き起こすさまざまな要因と高血圧とつきあう方法をうかがうことができる。

 荻原教授は「高血圧は遺伝と環境から発生する多因子症で、生活習慣病」とする。塩分が多く偏った食事、カロリーの過剰摂取や運動不足による肥満、ストレスなど現代人の生活習慣の問題点こそが、血圧の上昇に関係があるのだ。

 塩分の過剰な摂取が血管の収縮、高血圧を招くことについては前回ふれた。このほか野菜や果物などに多く含まれるカリウム、カルシウム、マグネシウムが不足することも血圧上昇につながる。カリウムには塩分を排出する作用、カルシウムには血圧を調整する作用、そしてマグネシウムには血圧の上昇を抑制する作用があるとされる。

 また、肥満は動脈硬化を進めて血液の流れを妨げ、高血圧を引き起こしやすく、ストレスは交感神経を刺激して血圧の上昇を招く。

 さらに喫煙は、ニコチンや一酸化炭素が血管を収縮させ、高血圧の人にとって命取りとなりかねない。飲酒も日本酒なら一日に一合、ビールなら同一本以内が適量で、それ以上は高いカロリーが肥満や動脈硬化を招き、結果的に高血圧につながるとされる。

 こうしてみると、現代人は生活習慣によっては高血圧が宿命づけられているかのようだ。原始人に高血圧がないのは、塩分摂取量や栄養の問題だけでなく、現代人が避けられないストレスや運動不足による肥満がないことなどが要因のようだ。

 それでは、どう生活を改善するべきか。荻原教授は大阪大学大学院医学系研究科加齢医学講座の冊子「加齢医学」(平成十三年度年報)で、江戸時代に尾張藩の横井也有が著した健康十訓を紹介している。

 一、少肉多菜

 二、少塩多酢

 三、少糖多果

 四、少食多齟(そ)

 五、少衣多浴

 六、少車多歩

 七、少煩多眠

 八、少念多笑

 九、少言多行

 十、少欲多施

 である。

 これらの十カ条には食生活、運動、ストレスなど生活習慣で注意する点が網羅されており、まさに高血圧対策にうってつけだ。

 われわれ現代人は原始人の生活に戻ることは不可能だが、江戸時代に記された教訓から学ぶことはできそうだ。