◆石灰沈着性腱板炎 突然、肩に激痛 適度な運動で筋肉鍛えて予防
40?50代に多く発症

 何もしていないのに突然、肩に激痛がはしり、腕に触ることも、眠ることもできない…そんな症状をともなう「石灰沈着性腱板(けんばん)炎」を訴える人が増えているという。四十歳から五十歳代に多く見られるが、いわゆる五十肩のような慢性的な症状とは違い、発作的に痛みが出るのが特徴。日常診療の現場からの留意点を、大阪府吹田市の前中整形外科クリニックの前中孝文院長に聞いた。(服部素子)

 石灰沈着性腱板炎は、肩関節の「腱板」という組織に、塩基性リン酸カルシウムの沈着物(=石灰)が付着して起きる。

 「レントゲン検査をすると、肩関節のところにモヤモヤした白い影が映り、すぐわかります。これが、腱板にたまった石灰の結晶で、激痛をひきおこす原因です」と前中院長。

 しかし、なぜ石灰がたまるのかは不明で、体質的なものなのか、腕や肩の使いすぎによるのかはわかっていない。また、石灰がたまっても、レントゲン上で境界が明瞭な丸い沈着の場合は、痛みは出ないという。

 「何らかのきっかけで、腱板の周囲の組織に石灰が流れ込み、炎症を起こすものと思われます。外傷も打ち身もなく、無理な姿勢を取ったわけでもないのに、発作的な激痛があれば、石灰沈着性腱板炎の疑いが濃厚です」

 あまりの激痛に、救急車を呼ぶ人もあるそうだが、通常は一週間程度で徐々に痛みは消え、もとのように腕を使えるようになるという。

 家庭での応急処置としては、まず患部を冷やし、安静にすること。

 「よく誤解されるのですが、市販の冷感湿布や温感湿布というのは、あくまでも冷たく、または温かく『感じる』だけであって、温度を下げるものではありません。冷蔵庫の氷でいいですから、アイシングをしてください」とアドバイス。足首や膝などでも石灰がたまり、同じ症状がでることもある。

 治療は、炎症を抑えるためにステロイド剤を注射すれば劇的に痛みは和らぐ。注射器で石灰を吸引して排出することもある。また、一般的には、安静と消炎鎮痛剤の内服や湿布薬で症状は改善する。

 石灰沈着性腱板炎は命にかかわる病気ではないが、五十肩(肩関節周囲炎)と思い込み、マッサージや電気治療に通い、いつまでたっても治らず来診する人もいる。また、レントゲン検査で転移性の骨腫瘍(しゅよう)が見つかるケースもある。

 「頭痛や腹痛には敏感な人も、肩凝りや腰痛では『トシだから』と片づける。重大な病気が隠れていることがあるので、痛みがあれば専門医で検査を受けてください」

 同時に、こうした肩や腰、関節の痛みを予防するために欠かせないのが、適度の運動によって筋肉を鍛えること。水泳やジョギングなどの全身運動が理想だが、日常生活の中でも、肩を強くするのに木製のハンガーを使う簡単な体操などを取り入れるといいそうだ。

 やり方は、肘を九十度に曲げ、肩幅の広さで手のひらを上に向けて両手でハンガーを握り、外側にグッと引っ張るように力を入れることと、内側に押しあって力を入れることを交互に繰り返す。一回一分を目安に数回行う。

 「筋肉は関節を支えるネジのような働きをするので、腱板炎の増加も運動不足になりがちな現代人の生活習慣と関係があるのかも」と前中院長。

 筋肉が弱いために筋肉疲労がたまってネジが緩んだ状態になり、肩凝りや腰痛を起こす人が多い。痛みのないときに、運動で筋肉にたまった疲労物質を掃除し、しっかりネジを締め直すよう、日ごろから心がけてほしいと話している。