◆忍び寄る慢性疲労 IT化・OA化進む職場で

 「全身がぐったりする」「よく眠くなる」と訴える人は多い。疲労を自覚しているのである。職場でIT化、OA化が進み、見た目は軽作業になったと思われがちだが、細かな注意力や判断力が必要で、精神的疲労は大変なもの。休憩しなくても、ある程度こなせるため、周囲も“過労”を見逃してしまう。が、蓄積し慢性疲労になると、さまざまな健康障害を呼び起こす。天理大学体育学部の近藤雄二教授(労働衛生学)は「労働者の疲労の予防は、職務の再点検などを職場全体で考えるべき」と話す。(篠田丈晴)

 人は疲れたという状態になると、多くの場合はひと休みをする。そうすれば、生気が戻って、再びやる気が起こる。半面、休みを取らないと、疲労は蓄積していくという特性もある。

 近藤教授は「昔は人の脚力や筋力が仕事に求められており、手足が疲れて動かなければ休めた。しかしIT職場では目と手の協調が主になり、疲れてもある程度は続けられる。仕事にとって休息が必要条件でなくなった。効率主義で、もし本人が休もうと思っても、上司らは効率が悪いとか、ロスだとかと判断してしまう。だから続けて作業をする」と、現在の職場をめぐる作業の悪循環を説明する。

 例えば、物流センターで集品作業がコンピューター化されたことによって、時間管理が徹底されると、作業速度を高める競争が激化し精神的緊張を強いられる。一人が遅れれば作業全体が遅れるため、「あの人の作業が遅いから、今日は早く帰れない」と言われないように全員が頑張るのだ。これではストレスがたまってしまう。

 近藤教授が調べた事業所ではこんな事例もあった。男女とも同じ内容の仕事をしているのだが、女性の方が多く疲労感を訴えていた。作業は資料のチェック。ただ、チェック完了したものを回収し、別の場所の棚にある資料の束を新たに持ってくるという作業は男性だけが受け持っていた。男女とも同じ数のチェック作業をこなしているのだが、体を動かしているのは男性だけだったという。「女性は集荷という役割がないから、意識が切り替わらない。動作的にも同じ姿勢が続き、拘束感が心理的にも姿勢的にもあるから、違和感やだるさが生じると思われる。逆に、小刻みに立ち上がって、動くことで筋肉をほぐすことが疲労予防につながることになる」

 疲労は、筋肉疲労から精神疲労に変わってきており、外(他人)からは気付きにくくなった。そのまま放置しておいたら、体のシステムも交感神経が活発化するから、糖尿病や高血圧などの人は脳内の血管が詰まったり心臓の血管が破れたりして、最悪の場合、“過労死”する危険性もある。近藤教授は「肉体的に疲れていなくても、四十五分程度やって五分休憩というように、上司など外から強制的に休憩を挿入してやるべき。サボりであるとか、工程が止まるという考えは捨てたほうがいい」と訴える。

 疲労度などの目安となるチェックリストのようなものはないのだろうか。近藤教授自身は「単純なものでなく、一人歩きしてしまう」として作ってはいないが、旧労働省の「作業関連の予防に関する研究」班健康影響評価グループが平成十二年三月に作成した「仕事のストレス判定図」(http://eisei.med.okayama-u.ac.jp/jstress/hanteizu/を参照)を、事業所の調査をするときによく使用するという。

 判定図を使用するための質問項目は別表の通りで、質問に答え、マニュアルに沿って進めていけば、その職場のストレスの大きさを、全国二万五千人の労働者の平均と比べることができるという。事業者向けだが、個人でも判定は可能だ。

 近藤教授は「目に見えない仕事上のストレス要因を評価し、それが労働者の健康にどの程度影響を与えているかを判定するための有効なツール」と評価。そのうえで「もし仕事と疲労について、何か不安があれば、全国各地にある地域産業保健センターに相談してみるのもひとつの手段」とアドバイスしている。