専門家「飲み過ぎ逆効果、適量を」
ビールの成分に、がんの発生を抑えたり、赤ワインと同じように活性酸素の働きを抑える抗酸化作用のあることが、キリンビール(本社・東京都中央区)などの研究によってわかった。ビール成分の中に含まれるホップや麦芽による効果のようだ。適量ならば、やはりお酒は百薬の長?(田中幸美)
実験では、大腸がんを発生させる物質を投与したラットに、五週間にわたってビールを自由に飲ませた。ビールは、ストローを取り付けた小さいほ乳瓶を斜めに置いて、ラットがつっつくと自由にビールが飲めるようにした。
発がん物質を投下すると、五週後くらいから将来がんになる病変(前がん病変)が現れるが、ビールを飲んでいたラットの病変の数は、水だけを飲んでいたラットの約六?七割に抑えることができた。ちなみにこの実験ではラットの一日の平均飲酒量は一二ml。
さらにビール一〇〇mlを凍結乾燥させてできたビール成分(水分とアルコール分を除いたもの)の粉末三グラムを、水に溶かしていろいろな濃度にした液体を与えた実験でも、同じように病変の発生を抑えることができたという。最も効果的だった濃度からビールの摂取量を計算すると、四?七・五mlとなった。
キリンビール研究開発部の近藤恵二さんは「ラットの実験がそのまま人間にあてはまるとはいえないが、人間にもっとも効果的なビールの量を推察すると、体重六〇キロの人で二六〇?五〇〇mlが目安となるのではないか」という。
次に抗酸化作用についての実験では、同じアルコール度数になるようにした赤ワインとビールの濃縮物水溶液をラットに一気に三ml飲ませ、一定時間後に血液を採取。血液成分中の血漿(けっしょう)に薬品を投与することによって強制的に酸化させて、血漿中の代表的な抗酸化物質であるビタミンEの減り方のスピードを調べた。
すると、ビールを飲んだラットと赤ワインを飲んだラットはビタミンEのなくなり方が同じくらいゆっくりであることがわかった。これは、血液中のビール成分がビタミンEに変わって活性酸素の働きを抑えるためだという。つまり、ビールは赤ワインとほぼ同等の抗酸化作用があることになる。ポリフェノールの含有量では、赤ワインの方がビールよりも一・五?二倍多い。
さらに試験管内での実験では、ビールは赤ワインの五分の一程度の抗酸化作用しか示さないのに、ラットではあるが実際生体で実験すると、赤ワインと同程度の抗酸化作用を示すという興味深い結果となった。
動脈硬化などは、活性酸素により酸化されたコレステロールが血管の壁に付着することが原因といわれている。アルコール飲料に含まれるポリフェノールやアルコール自体の効果により活性酸素の働きを抑えるらしい。
近藤さんは「生活習慣病にいいからといって、アルコールの飲みすぎは別の病気を引き起こします。適量摂取を心掛けてください」とアドバイスしている。
くれぐれも「過ぎたるは及ばざるがごとし」とならないようにしたい。