シルクロードを語るときに、馬の話題は欠かせない。そのなかでも甘粛省武威県雷台の漢墓から出土した騎馬出行群像や、とりわけ「燕(つばめ)を踏んで奔(はし)る馬」の像は、草原や砂漠を駆けめぐった汗血馬のイメージをもっともよく表現した、芸術品の名に恥じない傑作である。

  首をちょっと斜めに振り立て、先を結んだ尻尾をなびかせて走るその姿は、飛翔の速さで知られる燕の上に脚を乗せていることでスピードを象徴的に示していて、造形的にも現代に十分通用するものだ。

  ところで、何年か前の中国の考古学雑誌に、この銅馬の足元にいる鳥は、じつは「燕」ではなく、「鷹(たか)」だという説を主張している論文が載っていた。

  その根拠はといえば、まず外見的には、燕の尾は「燕尾服」というように二股であるはずなのに、この鳥の尾は分かれていないこと、形が燕には見えないことで、それ以外にも、文献その他の資料を援用しながら、この鳥が鷹であるということを論証したものだった。

  たしかに汗血馬は、何よりも軍用として重視されたのであり、また雷台出土の銅馬たちの、歯をむいた荒々しい顔つきを見ると、この鳥が、かよわい燕ではなく、猛禽(もうきん)類の鷹であっても不思議ではないような気もする。

  ともかく、この汗血馬争奪戦が、漢がシルクロードを征服するきっかけともなったのだから、馬はますます見過ごせないわけだ。

  (濱田英作・埼玉女子短大教授)