ひところ、東京の代々木公園や上野公園に、日本へ出稼ぎに来たイラン人が、日曜日になると集まって、新聞の話題にもなったことがあった。バンドを組んだり、歌ったり、踊ったりする若者のすぐそばに、大勢のイラン人がたむろしているのだから、それはたしかに珍しい光景ではあっただろう。

 かれらはこうした大きな公園に集まって、それぞれの職場の情報を交換していたのだが、しだいにそれだけではなくなって、品物を売買したり、シシカバブの店を出したり、はては青空散髪屋までやりだした。

 結局、外国人滞在規則が変わった関係で、このにぎわいもさた止(や)みになったのだが、現代の日本人には異様に見えたこの光景も、イラン人(つまりペルシャ人)にとっては、ごく当たり前のことにすぎなかったはずだ。

 つまりかれらは、そこに即席のバザールを形成したわけで、代々木公園や上野公園には、日曜日ごとに、イランや中央アジアのどこにでも見られる「市」が立ったのである。

 われわれはまさにシルクロードのバザール経済の実例を、いながらにして目撃することになったのだが、最近では全国各地にフリーマーケットも定着し、日本の「市」にも闇市(やみいち)以来の復活の兆しがあるようだ。それ以外にも、大都市の盛り場では、イスラエルの若者がかばんを広げて細工物を売っているし、シルクロードの民はたくましい。

(濱田英作・埼玉女子短大教授)