匈奴族など、とうの昔に滅びたか、中国人の中に溶け込んでしまったかと思うのが当然だが、なかなかそんなこともないようだ。

 「シルクロードの煌き」展の下準備で訪れた内モンゴルで、文物考古研究所の方々と会食をしているうちに、話はいつのまにか匈奴のことに移っていった。

 モンゴル名を持つある先生いわく、「私は匈奴族だ」と自慢する。

 日本人一同「ええっ!?」と目を白黒。

 「そんなこと、どうしてわかるんですか」と聞くと、先生が言うには、つめの形でわかるのだそうだ。どちらだったかは忘れたが、つめが平たいか丸いかで、匈奴族と漢族の区別がつくらしい。

 かつてあるポーランド研究者の先生にうかがったことがあるが、ポーランド人の中には、いまでもモンゴル侵入の時の子孫だということを誇りにしている人がいるそうで、その証拠だと言って目を見せてくれたら、たしかにまぶたの鼻筋側に、モンゴロイド特有の、例の蒙古襞(もうこひだ)というものがあったという。

 それにしても、20世紀の現代に、なお匈奴だのモンゴル人だののプライドが生き残っていることには驚かされる。われわれにはいま一つぴんとこない、コソボやコーカサスの民族紛争も、ひょっとすると、このあたりに理解するポイントがあるかもしれない。

 こう見てみると、シルクロードというものも一筋縄ではいかないものだ。

(濱田英作・埼玉女子短大教授)