ウズベキスタンの古都、サマルカンドのバザールを訪ねた。

 とても広くて、パン、食肉、野菜、果物、日用品、雑貨、衣料など、それぞれの区画に分けられている。観光化されているわけではないが、熱心に人を呼んで、しかも親切なことは、函館の「自由市場」とも同じだ。

 私を連れていってくれたサマルカンド国立大学の先生が、果物の区画で、さかんに味見をする。干しブドウを手のひらに山盛りにして遠慮なく食べては、買いもしないのに、なにかとケチをつける。するとそれを見ていた別の売り手が、オレのは甘いぞと声をかけ、自分から手づかみにして差し出す。

 その先生が「腹が減ったらバザールに行けばいいのだ」と自慢していたのはこのことかと、あらためて納得した。日本のデパートでも試食はできるが、小さなかけらをふた切れも食べたら、にらまれているようで、もう気が引ける。

 後で現地駐在の邦人にうかがったら、「トマト二個ください」などと言おうものなら、テキはあきれて「やるから持ってけ!」ということになりますと笑っていた。つまり独り暮らしの日本人などは、その気なれば、食費はタダでまかなえてしまうだろう。

 市場経済を目指す国が、こんなのんきなことでいいのかと、人ごとながら気になった。

 それとも、そんな心配は余計なことで、このまま、ずっといくのかもしれない。

  (濱田英作 埼玉女子短大教授)