鎮墓獣とは、読んで字のごとく、墓を守るために入り口に置かれた魔よけの怪獣で、前足を立てて坐(すわ)り、人面獣身をしている。

 人面獣身で墓を守るといえば、真っ先に思い浮かぶのが、エジプトのスフィンクスだ。また古代アッシリアでは、やはり人面獣身の怪物が二頭、墓ではなく神殿の門を守護していた。その名残は、新バビロニア王国のライオン門の浮き彫りタイルに留められている。

 ライオンとくれば、鎮墓獣の中には、人面ではなくてライオン、というよりも獅子(しし)の顔をしたものも多いが、そうなるとわれわれの脳裏に浮かぶのは、神社の入り口を固める二匹の狛犬(こまいぬ)である。狛犬の「コマ」は高麗と通じ、つまりはその起源が、朝鮮半島を越えて、はるか西方にあることを暗示する。

 墓でも神殿でも神社でも、聖域を守護するのは人面獣身、あるいはライオン顔の怪獣であるのは興味深いが、ライオンの顔で、家の門ごとに祝って邪気を払うものといえば、かつての日本では、それは獅子舞だった。

 獅子舞はよく二人で演じられるが、一人で獅子の面をかぶり、太鼓をたたいて踊るところもある。そこで思い至るのが、宮沢賢治の童話で有名な「鹿踊り」だ。見ればあの面も、鹿よりはむしろ獅子を思わせる。第一、あれは、「しし」踊りと読むではないか。

 鎮墓獣からこれだけ連想が広がるのだから、シルクロードは奥が深い。

  (濱田英作 埼玉女子短大教授)