オアシスの道は、私たちが抱いているシルクロードのイメージに、最も合致する道だ。月の砂漠に魔法のじゅうたん、「開け、ごま」の呪文(じゅもん)。もちろん、現実が「隊商」を書いたドイツの小説家ハウフの作品とは、違うことはよくご承知のとおりだ。

 高山の氷河からの雪解け水がいったん伏流し、谷あいで泉となって噴出するところに、まず小さなオアシスができる。ここで野生の麦をもとに栽培しはじめた人たちがしだいに農耕を発展させ、こんどは中流斜面を農地として開発し、村落を作る。そしてついには山ろく平地に降りてきて、大規模な潅漑(かんがい)水路をめぐらした、オアシス都市国家を築いていったのだ。

  オアシスの道は、こうした都市と都市とを結ぶ、砂漠の商業交易路として発達したものだ。各オアシスで生産された農作物、農機具、日用品、ぜいたく品、特産品などは、隊商のラクダの背に担われて運ばれ、城壁外側のキャラバン・サライ(隊商宿)で荷ほどきをした後、町の中心部にあるバザールで取引される。

  バザールはまた、情報の交換される場所でもある。現代の「市場」は、ディーリング・ルームのコンピューターの中にあるが、かつてのオアシスは、まさに一つ一つが端末となって、ユーラシア市場経済のネットワークを作りあげていたともいえよう。

  東洋学の泰斗、故松田寿男博士のことばを借りれば、「点と線の世界」。それがオアシスの道だ。

(濱田英作・埼玉女子短大教授)