もし空からシルクロードを一望したいとお思いなら、香港発ヨーロッパ行きのフライト・スケジュールを一度調べてみられることをお勧めする。

 もう十年も前になるが、私が利用したのは、たしかドイツの航空会社の飛行機だった。

 どこがいいのかというと、なによりも西へ飛んでいくから日が沈まないので、いつまでも風景を楽しむことができる。

 まず雲南とビルマの黒々とした密林を飛び越えると、まるでガーデニングで水をやりすぎたみたいに大地が水浸しになっているのが見えてくるが、それはバングラデシュだ。それから今度はその水がしだいに乾いていくと、インドに入る。そこで目を水平に転ずれば、右側にはヒマラヤ連峰が、延々一時間にわたってその姿を見せてくれる。

 やがてそれも遠ざかると、イラン上空に入る。テヘランを過ぎれば下は無人の砂漠地帯、一万メートルの高度でも照り返しの熱にあてられて、気分が悪くなる(うそではない)。

 ようやくすこし日が傾きかけると、コーカサス山脈が近づいてくる。ここはもう聖書の世界、トルコのアララト山がひときわ荘厳なシルエットになってそびえ、真下に見えるのは、これもほとんど人の気配のない、真っ白な砂の岸辺に囲まれた、イランのウルミア湖か、トルコのヴァン湖だ。

 そしてとうとう日が暮れたころ、飛行機はヨーロッパ上空に達するというわけだ。

  (濱田英作 埼玉女子短大教授)