シルクロードに魅せられる人ならば、だれでも最低ひとつは、お気に入りのイメージ(像)を持っているはずだ。

 ところで戦前、いや大正時代に、はやくもシルクロードに、現代とほとんど同じ感覚であこがれ、みずから作りあげたイメージを、その作品に定着させた人がいた。

 その人こそだれあろう、あの宮澤賢治だ。詳しくは金子民雄氏の諸作を参照していただくとして、賢治は「西域三部作」などと称した作品を残しているほどで、その知識は専門家はだしであったようだ。

 背景には幼少期より読みふけった西遊記とアラビアンナイト、法華経の信仰、当時の中央アジア探検ブームなどが考えられるが、なかでも賢治が(図版で見て)もっとも衝撃を受けたと思われるのは、イギリスのスタインがタクラマカン砂漠、西域南道のミーラーンという廃墟の寺院遺跡から発見した、天使と供養者の群像壁画だった。

 かれらは明らかにヘレニズム技法で描かれ、西方の文化が、中国のすぐ隣まで及んでいたことを物語っていた。

 賢治の作品には、このミーラーン有翼天使に触発されたものが、ずいぶんある。童話「雁の童子」、幻想譚「インドラの網」、断片「みあげた」などがその例だ。

 今度の展覧会で、ぜひ皆さんにも、それぞれのイメージをみつけていただきたい。

  (濱田英作 埼玉女子短大教授)