中央アジア、オアシスの道沿いに確立された大乗仏教(いわゆる北伝仏教のことだが、ここではこう呼んでおく)には、西方にちょうど比肩すべき宗教がある。

 それはペルシャに始まり、ローマ帝国に伝えられたミトラス教と、その上にかぶさるように成立したカトリックだ。

 これらはみな救世主を礼拝しており、ミトラス神は大乗仏教における未来仏マイトレーヤ、つまり弥勒菩薩につながるし、日本における救世主、聖徳太子は馬小屋で生まれたが、幼子イエスは飼い葉おけに寝かされている。

 つまりユーラシアを大きく見ると、西アジアを中心として、シルクロードを通って洋の東西に救世主信仰が広がったと考えることができるだろう。典型的日本ブディストであることに免じて、あえてこういう言い方を許してもらえるならば、カトリックとはいわば「大乗キリスト教」なのである。

 たとえばカトリックには多数の守護聖人がいるが、大乗仏教でも無数の仏菩薩や諸天が崇められる。スペインへ旅行する日本人が、あの金色に荘厳(しょうごん)された大聖堂の祭壇を見てまず思うのは、「仏壇そっくり」ということだ。

 かつて私はパリのマドレーヌ寺院で、ほの暗いろうそくに揺れる影を見て、「観音様だ 」と思ったことがあった。もちろんそれはベールを被ったマリア様なのだが、そのときの 感動は、両者の区別など越えていたのだった。

  (濱田英作 埼玉女子短大教授)