十九世紀から二十世紀前半にかけては、世界的に秘境探検ブームがわきたった時代だった。だからインディ・ジョーンズはまさにこの時代を舞台背景に選んだのだし、英国のコナン・ドイルの生んだ名探偵、シャーロック・ホームズもまた、ライヘンバッハの滝で行方不明になってからの一時期、ジーゲルソンというノルウェー人に身をやつして、ダライ・ラマと会見したことになっている。

  コナン・ドイルは歴史家としても一家をなした人だが、他に「高名の依頼人」の中でも、結婚詐欺師で陶磁器のエキスパート(どちらのコレクターでもあるというすごい設定だ)、アデルバート・グルーナ男爵に、ワトスン博士に対して「聖武天皇についてご存知ですか」などと質問させたりしていて、そのアジアヘの博識ぶりには舌を巻かざるを得ない。

  これはもちろん、当時の欧米帝国主義列強による植民地獲得争奪戦と表裏一体をなした現象で、この探検ブームは、シルクロードにおいては、南進を企てるロシアと北進を図るイギリスの勢力角逐となってあらわれ、その両者の接触点が、まさに現在の中央アジア諸国や、新疆ウイグル自治区だった。

  両国はこの地域に勢力を広げ、したがって当時の中央アジアには、いまよりもずっと西欧文明が入りこんでいたはずで、だからこそそれを頼りに、各国の探検家が往来することもできたのだ。

  (濱田英作 埼玉女子短大教授)