武満の生き方紹介/聴き方変わった生徒 芽室町立芽室中学校 野上 泰宏 先生

 「教科書にある音楽は、ちっともおもしろくない」。私が「音楽と新聞」という、一見かけ離れた教育に取り組んだのは、そんな生徒のつぶやきからでした。

 教材は、武満徹作曲の「ノベンバーステップス第1番」。生徒たちにはあまりなじみのない日本の現代音楽に触れるにあたって、初めて「新聞記事」を授業の中で活用しました。

 最初にこの曲を聴いたとき、生徒たちはその耳慣れない音楽に戸惑いを感じたのでしょう。曲の冒頭部分を鑑賞した後の感想は、「なにも感じない」「聞いたことがない」など無反応なものや「暗い」「気持ちが悪い」といった否定的な印象が圧倒的でした。

 そこで私は、作曲者を取り上げた新聞記事を使い、戦争の真っただ中に中学生だった作曲者の生きた時代や考え方に触れさせ、独学で作曲法をマスターしていった異才ぶりを紹介するなどして学習を展開しました。生徒たちは単なる「教科書に載っている教材」から視点を変え、現在生きている自分たちと音楽とのかかわりを感じ取っていったのです。

 新聞記事を読んだ後の鑑賞では、明らかに反応が変わっていました。音楽から作曲者の思いを聴き取ろうと、じっと耳を傾ける生徒が目立ちました。これは他の鑑賞の授業では、見られなかったことです。

 聴き終えた後の生徒の感想も、「独学でこんな曲を作り、世界的に知られている人がいるとは知らなかった」「私と同じように原点から始めた人が、すばらしい曲を作ったのを知って、何でもやればできるんだということがわかった」など、変化がありました。

 これ以降、日本の伝統音楽などの授業にも新聞を活用しています。「古くさい音楽」というイメージが、新聞記事で演奏家の生き方や人となりを知ることにより、身近な音楽として親しみを感じるように変わっていく様子がうかがえます。

 今後は、コミュニケーションを円滑にするための新聞活用を、模索していきたいと考えています。自分が音楽から感じたことを通じて他者と交流し、そこから音楽の素晴らしさや豊かさに気づくことができる授業を展開できたら、それこそ楽しいものになるでしょう。

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