タイムリーな記事活用/思考力育てる 札幌市立稲積小学校 木村 大輔 先生

 新聞の記事は教科書に載っていない最新の情報を知る上で、とてもすばらしい資料になります。しかし、現在学習している内容と、いま報道されている内容が一致していることはほとんどありません。学習が終わった後に「この記事は使えたな」と思うことがしばしばありました。そこで、次年度以降に資料として使うための記事をストックする一方で、授業ではあまり教育課程にこだわらず、話し合い活動をするための資料としてタイムリーな記事を使うことを考えてみました。

 話し合うためには記事の内容をよく読まなければなりません。内容を理解した上で自分の考えをもたなければなりません。つまり、記事を話し合い活動の資料として活用することで、思考力や判断力、話す・聞くといった力を育てることができると考えたのです。

 実践の中で、特に活発な話し合いに発展したテーマとして記憶に残っているのが、スポーツ面に掲載された「薬物と本塁打」という記事です。記事は米大リーグのマーク・マグワイア選手が筋肉増強効果のある薬剤アンドロステンジオンを使用していることについてのレポートです。ここで問題にしたことは「薬物服用の是非」を問うのではなく「マグワイア選手の記録を世界記録として認めるか」ということです。

 「認める派」の何人かは「打ったことに違いはないだろう」「法律に違反はしていないよ」「薬も筋肉トレーニングの一種だ」と活発に意見を述べます。

 対する「認めない派」は「実力で打ったとはいえないよ」「練習で力をつけたほうが気持ちいいと思うな」「筋肉増強効果のある薬を飲んでいることは許せない」「プロの選手としては失格ではないか」と厳しい意見も出てきます。どちらともいえないという中立派は「大リーグでは薬の使用が認められている。ソーサ選手も薬を使えば、もっとホームランが打てたかもしれない」「使っていない選手もいるのだから不公平だと思う」と公平な競争を主張します。

 このときの授業では一人一人が自分の考えを素直に表現してくれました。そして私は「認める派」の一人が述べた「薬を使った世界記録として認めればいい」という意見の着想の奇抜さに感心させられました。

 記事からテーマに取り上げる話題は豊富です。人里に出没するクマを殺すことの是非を考えた話し合いでは、「ほうっておくと人が殺されるかもしれない」などと駆除に賛成が六人に対し、「人間がクマの寝床をとったうえに、命まで取る必要はない」などと反対が24人。話し合いが終わるころには、子供たちは自然の大切さや乱開発が招く環境への影響など多くのことを学んだようです。そして同時に、新聞紙面からどんな話題を選び出して授業に活用するか、教師自身も子どもの興味、関心を引き出す記事を探していく力をつけなければならないと感じています。

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