雄弁に事実伝える/一枚の写真の迫力 札幌市立北野台中学校 福田 奈緒子 先生

 一枚の報道写真が持つ訴える力、それは時には長い行数で詳報する記事よりも雄弁に事実を伝えることをNIEの授業で実感した。

 前任の札幌市立上野幌中学校で、学年全体が取り組んだ道徳の時間に、ピュリツァー賞を受けた一枚の写真を取り上げた。飢えで力なくうずくまる少女を、背後に舞い降りたハゲタカがじっと狙っている−。スーダンの深刻な飢餓を伝えるこの写真は、世界に衝撃を与え、援助へのきっかけともなった。

 だが一方で、死にかけた少女にカメラを向けるのか、なぜ救いの手をさし伸べない−と非難の声があがり、後には撮影したフォトジャーナリストが自殺に追い込まれるなど大きな論争を呼んだ。

 ディベート学習の教材にと希望した私たちの申し出を、配信先のロイター通信は快く承諾してくださり、大きく引き伸ばした教材用写真を提供していただいた。

 学級での討論−。普段は活発に意見を述べる生徒たちだが、「飢え」「死」と直面するテーマは内面での葛藤(かっとう)が強いのか、静かに考える一時間となった。それでも討論は、やがて対極する二つの意見に分かれていく。「私ならカメラを向けることはできない。まず少女を助ける」と女子生徒。男子生徒の一人は「この写真が多くの人を助けるきっかけになったのだから」と擁護する。そして「この写真家の心の中にも人間としての助けたい気持ちと、ジャーナリストとしての使命感の間での迷いがあっただろう」とまとめる意見も出た。

 授業の始めには、報道について「知りたいことを知らせるもの」と言っていた生徒たちだったが、最後には「新聞は、一枚の写真ででも事実を知らせることで、世の中を変える力がある」と認識を深めていた。

 鳥にかかわる学習でもうひとつ、一年生の国語にある題材「渡り鳥のなぞ」で新聞活用を試みた。日本に渡来する渡り鳥を分類し、渡りのルートや渡る理由を述べた説明的文章の単元だ。教科書から、渡来する時期と目的によって夏鳥、冬鳥、旅鳥、漂鳥に分けられることを読み取った生徒たちは、さらに発展学習として新聞の渡り鳥に関する記事からそれが何鳥かを判断する。

 必要なのは、鳥たちは日本にいつ、どこから、何のために来るのか−という情報だ。記事に含まれる多くの情報の中から必要なものを抜き出し、分類の手掛かりにしていった。

 教科書に書いてあることは教科書の中だけのことだと感じてしまいがちだが、新聞などを利用することで身近でリアルな情報として受け止め、意欲的に学習できたようだ。

 いま、多くの情報にふれる機会に恵まれている現代の子供たちが、その中から取捨選択する能力や、正しい判断力と志をはぐくんで生きてくれるよう願う。

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