記事から“卒論”作成/社会へ関心深める 札幌市立山の手南小学校 朝倉 一民 先生

 前任の西宮の沢小でNIE実践を始めて数カ月が過ぎ、六年生の子供たちが卒業近くなったころ、最後に新聞を使って形に残る活動をしたいと思い、「卒業論文づくり」を計画しました。新聞の記事の中から自分なりに調べてみたいものを選び、それをテーマにしてまとめるといったものでした。

 社会科の「世界の中の日本」という単元にそって、総合的な学習を意識しながら主に世界に関することをテーマにすることにしました。子供たちにとって世界に関する知識は、こちらが予想するよりもはるかに乏しいものでしたが、朝の活動などで新聞に慣れてきている子供たちにとって、そこから世界を意識させることは案外容易でした。

 感じるままに自由な発想で、世界のいろいろなニュースに疑問や興味を抱かせることを大切にしました。子供たちは世界の記事を食い入るようにながめ、自分の「卒論テーマ」を探します。「スペースシャトル」の記事から、「アメリカではどのような宇宙開発がおこなわれているのだろうか?」。「朱里ちゃんの臓器移植」の記事から「なぜ、国内では臓器移植ができないのか?」。「パレスチナ戦争」の記事から「なぜ戦争をしているのだろうか?」といった疑問や関心を抱いた子供たちは、自由に調査活動に取り組みはじめました。発表の形式も新聞にする子、大きく図であらわす子、ニュース番組の形で放送する子とさまざまでした。

 活動の中では、子供たちが自分自身で「問い」をくりかえし、調査をおこないます。その記事が、その後の新聞ではどのようになっているかを追ったり、以前の記事を着目する子もいました。記事をまとめて張る子、また、インターネットを情報源として資料を集める子供もいました。新聞だけで調べ学習しようとするとなかなか難しいものがありますが、新聞の記事を窓口として、子供たちはさまざまな情報源を利用して調べます。「サハリン」の記事から、ロシアの貨幣を調べた子供たちは、日本との貨幣価値の違いに驚きました。物価の違いにも自然に気づくことができたのです。

 新聞に限らず、情報が氾濫(はんらん)している現代社会の中で、子供たちが情報に積極的にかかわっていくことはとても大切なことです。初めて新聞を使った実践に取り組んでみて、テレビ欄やスポーツ面しか見ていなかった子供たちが、確実に社会のいろいろな出来事や政治の問題、世界の情勢に目を向けるようになったと実感しています。テレビのニュースや新聞、雑誌などでいつも結果だけを耳にしていた子供たちが、自分なりに向き合うことができるようになったのです。

 新聞ほどさまざまな側面で情報を載せているものはないでしょう。政治、社会、経済、福祉、国際、地域…。これらの情報に自分から向き合うことができる力こそ、子供たちの生きる力になっていくと確信しています。

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