民主主義の面白さ
参議院選挙は、無党派層の反乱による橋本政権の退陣という予想外の結果に終わった。だが、よく考えてみれば、この結果を予想外ということ自体不遜な言い方である。
この数ヶ月、内閣支持率は低迷を続け、選挙戦の終盤では恒久減税をめぐって、橋本首相は定見のなさをさらけ出し、全体として自民党政権は統治能力の欠如を露呈した。また、さかのぼれば昨年十月の宮城県知事選挙では、無党派層のうねりによって投票率の上昇、浅野知事の保保連合候補に対する圧勝という結果がもたらされたばかりである。
つまり、ドラマの予兆は存在していた。今度の選挙はハプニングではなく、民意が素直に発現しただけの話である。
それにしても、我々政治業界の人間は、政治の実態が分かっていないものだと思い知らされた。新聞記者は、永田町周辺を動き回って情報を集め、世論調査のわずかなサンプルによって民意を推し量る。政治学者や評論家は、そうした新聞の情報をもとにして、あれこれコメントを考える。実は、今回の選挙についても、私は世論調査をもとにして評論の予定稿を作っていた。もちろん、開票を見ながらあわてて原稿を考え直したのである。
そういえば、昨年イギリスに滞在していたとき、イギリス総選挙をウォッチした。この労働党の勝利も、予想をはるかに超える地滑り的大勝であった。また、直後のフランス総選挙も予想を覆す社会党の勝利となった。このところ、民主主義国の選挙では、民意は政治業界の予想をはるかに超える強烈な意志表示を繰り返しているのである。
どこの国でもマスコミによる世論調査の手法が発達して、事前の予想が精緻になることへの不満が聞かれた。投票に行く前に結果が分かれば、ばかばかしくて投票に行かなくなるというわけである。民主主義の面白さに水を差すような玄人ふうの政治予測に対しても、選挙民は反乱を起こしているのかもしれない。
私自身、この数ヶ月は自民党の不思議な強さを前提に、悲観的な評論を書いてきた。先月の本欄の原稿なども、その一つである。政治家に対しては、国民を信頼して大胆な政策を打ち出せなどと説教をしているが、実は国民を信じていなかったのは自分自身だったのかなと大いに反省しているところである。民主主義の面白さと恐ろしさを痛感した選挙だった。
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