国益から道益へ
このところ、北海道の政治・経済をめぐる話題は暗いものばかりである。北海道開発庁の廃止と公共事業の削減、拓銀の破綻と倒産の増加。確かに暗い話ではあるが、いままでと同じような意味で繁栄や発展というものを追い求めることはできなくなったという教訓をそこからくみ取るべきであろう。このような危機の時代にこそ、我々は本音の政策論議をしなければならない。このコラムでは、いくつかの建前型政策論を俎上に載せて、虚妄の国益よりも現実の「道益(北海道の利益)」にかなった政策提言を試みたい。
今回は、その手始めに、北方領土問題を考えてみたい。内政面では何の業績もない橋本政権だが、対ロ関係の打開だけは評価できる政策転換である。領土返還も夢物語ではなくなった。ただし、かりに日ロ両政府の妥協により、北方四島が日本の領土になるならば、北海道は途方もないお荷物を背負い込まされる羽目になる。道内にはただでさえ過疎に悩む広大な町村がひしめいているのに、この上インフラの整備がまったく進んでいない巨大な島々が加われば、一体誰がその維持費を払うのだろうか。ロシアは名を捨てて実を取る、つまり名目的主権を譲る代わりに地域開発の費用を日本に無心する可能性もあるだろう。
いままでの北方領土返還運動は、返ってこないという前提のもとで行ってきた精神運動だった。しかし、これからは現実の問題として具体的なシナリオを作ることこそ必要である。領土問題を解決して日ロ関係を前進させることは大いに結構である。しかし、それは国のメンツのためではなく、北海道の経済発展に役立つものでなければならない。北方四島の漁業資源の開発とサハリンの石油資源の開発を一体のものとして考え、北海道とサハリン州政府との間で対等互恵の観点からビジョンを作り、両国の中央政府はそのような地域レベルのビジョンをバックアップするという関係こそが望ましい。
国に頼めば面倒を見てくれる時代は終わった。北海道が生き残るためには、自ら計算高く地域の経営戦略を考えなければならず、そのためには何より情報を持つことが不可欠である。また、国際的感覚を持った人材も必要である。そして、道益とは何かを考え抜く知性が求められている。
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