赤頭巾ちゃん、シンデレラ、白雪姫など、誰もが幼いころに一度は親しんできたグリム童話。しかしこれまでよく知っていると思っていたそれらの童話たちが、じつはまったく違う別の面をもっているとしたらどうだろう?
1812年に発刊されたグリム童話は、批評家たちから「こんな物語を母親が無垢な子供たちに話してやれようか」と批判された。そこでグリム兄弟は、版を重ねるたびに、妊娠や近親相姦など性をほのめかす表現を徹底的に削っていった。我々が知っているのは、この手を加えられたあとの童話集なのである。そこで今日、グリム童話集の初版の生々しくあらわな表現が改めてクローズアップされる反面、童話に対するさまざまな新解釈が試みられている。 とくに人気なのが「精神分析的」解釈で、たとえばブルーノ・ベッテルハイムによれば「白雪姫」と継母の闘いは、父親をめぐる母娘間のエディプス・コンプレックス的葛籐だし、カール・ハインツ・マレによれば「青ひげ」がこの部屋だけは開けてはならぬといって妃に渡す鍵は、「貞操帯」の鍵だというのである。もう一つ盛んに行なわれているのが「歴史的」解釈で、た とえば童話に継母が多いのも、当時のヨーロッパでは夫五人のうち一人が妻を失い再婚していた事情を表しているし、「ヘンゼルとグレーテル」に出てくる「子捨て」も、飢餓で働き口がないとごく普通に行われていたことだというのである。 このように、いっけん素っ気ないほどの童話の文だが、深読みしてみると、現代の親子関係、男女関係、夫婦関係などをそのまま映し出しているようにもみえる。親子間の断絶や子供たちの間の苛めの問題など、現代人を悩ませる様々な社会問題への解決を、童話のなかに求めるという読み方もできるのである。 |
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世界の一流のエンターテイメント文化を北海道に紹介し、地域の新たな文化の醸成と発信を目指しスタートしたレジデンスプロジェクトin札幌。2004年、その立ち上げとして、フランスをはじめ、欧米各地で絶大な人気を博すコンテンポラリーサーカス「ヌーヴォー・シルク」を北海道で初めて開催した。
作品「voyage(旅)」はフランス本国でも珍しい野外劇場での公演となった。フランスから招聘したシルクアーティストに日本のダンサー、ミュージシャン、映像クリエーターを加えた日仏共同で制作され、2日間に6,700名の人々が札幌芸術の森・野外ステージに来場。幻想の世界に酔った。 サーカスの枠組みに捕らわれない新しい表現方法を次々にあみ出す変幻自在のヌーヴォー・シルク。この2005年、レジデンスプロジェクトin札幌は、フランスからの新たな表現者たち、童話の世界を独自の感性とシルクパフォーマンスで表現するカンパニーカアン・カア「グリム」公演を開催する。 膨大な数の寓話の要素を織り交ぜて構成されている「グリム」だが、その中でベースとなっているのは、グリム童話の「七羽のからす」と「六羽の白鳥」。「七羽のからす」は、小さな女の子が、自分が生まれた時に呪文によってからすに変身させられ姿を消した七人の兄たちを探しに、旅に出て多くの試練に遭遇するというもの。「六羽の白鳥」は、継母によって白鳥に姿を変えられた兄たちを、自分を犠牲にしてまで取り戻そうとする王女が主人公の物語。日本ではあまり有名ではないが、美しく暗示や示唆に富んだ、これらの童話から「グリム」の着想が得られている。
舞台では、演出家ギュルコによって現代の視点から読み直された中世ヨーロッパの世界観が、様々なスタイルで表現されている。シルクアーティストが高さ8mのところまで一気に飛び上がったり、一見怪しくも見えるパフォーマンスは、実は子どもが大人へと成長する過程でぶつかる、「怖さ」や「不安」という要素を表現しているのだ。 伝統的な「サーカス」の概念や、ファンタジーに彩られたグリム童話のイメージを一蹴するヌーヴォー・シルク「グリム」。観客は舞台上のシルクアーティストによって中世ヨーロッパの暗く深い森の中に導かれ、共に冒険し、摩訶不思議な世界を体験することになるだろう。 |
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※キャストは変更となる場合がございます
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