≪絵と文部門≫

大賞三席 (北海道学校図書館協会賞)

受け継がれた命

鈴木 絵(すずき かい)=上富良野町立上富良野中学校1年

読んだ本:《クジラと海とぼく 水口博也/著(アリス館)》

 私は犬と散歩に出る。少しすると、川のせせらぎが聞こえる。そこには小さなプランクトンや珪藻類がいるだろう。川を渡ると森が広がる。森にはキツツキが木をつつく音がこだまする。キツツキは小さな虫を見つけ、食することだろう。別の木をカサコソ伝え歩く音がしてそちらを見れば、丸い目をしたエゾリスと目が合う。松ぼっくりについた実を食し、いらなくなったカサを地面に落とす。空にはトンビが円を描いて飛んでいる。この自然の中にいて、人は人間が一番賢く、一番偉い、と思いがちだ。果たしてそうなのだろうか?
 東京タワーの展望台から見る下界はゴミゴミしたものだった。マッチ箱よりも小さな建物の間で豆よりも小さな車が細い道を右往左往し、ゴマ粒のような人がうごめいている。あんなに小さな私が、あんなに小さな家の中で、姉と比較して自分は成績が悪いだの、明日のテストが心配だのと悩む。あんなに小さな世界で、人と人が戦争を起こし、殺し合いをする。地球は四十五億年前に生まれ、生き物は四十億年前に生まれたというのに。それが脈々と受け継がれてきているというのに。ちょっと大きさや形が違うだけなのに。
 小さなアリはいつ、人に踏まれて一生を終えるかわからない。けれどせっせと冬のために食料をたくわえる。小さな種から生まれた花は、ひと夏の間に成長し、かれんな花を咲かせ、そして枯れていく。しかしアリは子孫を残し、花は種子を作って仲間を増やす。人間も同じように子孫を残し、やがて死んでいく。みんな同じ一つの命なのになぜ人は自分が一番偉いと思うのだろう。なぜ比べたがるのだろう。
 この世にある命は皆、四十億年もの歴史を持っている。私が今ここに居るということは奇跡と言ってもおかしくはない。そのことに誇りをもって、日々感謝しつつ生活していきたい。

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